2019年ビジネスの着目点(AIが自己増殖する未来社会)
平成最後の年となった2018年は、年明けからの仮想通貨暴落や株式市場の下降トレンド、さらに、スルガ銀行の不正融資問題による不動産市場の混乱など、高レバレッジの投資家にとっては、厳しい1年となった。その一方で、上場企業の収益は、純利益ベースで過去最高となり、景気は好調であることを示している。
成長性や収益性の高い企業に対して、余剰資金で長期投資を行っている投資家は、それほど大きなダメージは受けておらず、投資手法のスタンスにより、明暗が分かれている。
国際的な問題では、米トランプ政権の関税政策に各国が振り回され、貿易戦争も辞さない風潮が高まっている。また、日産のカルロス・ゴーン氏、中国ファーウェイ副会長が逮捕された件からは、国家権力がビジネスへの介入を進める不穏な雰囲気も漂う。
国境を越えたビジネスのグローバル化や自由化が進む一方で、自国の利益を優先する保護貿易主義や、移民の受け入れを反対する動きは、新ナショナリズムとして、米国、欧州、中国などへ広がっている。そうした中で、これからの日本はどのように立ち向かい、変化していくのかを考えることが、2019年以降の課題になる。
《2018年に起きた主な出来事》
- 仮想通貨の暴落(2018年1月)
- 米国金利の上昇(1年で1.50%から2.50%への上昇)
- スルガ銀行の不正融資問題が表面化(2018年5月)
- 働き方改革法の成立(2018年6月)
- 歴史的な米朝首脳会談の開催(2018年6月)
- カジノ法案の成立(2018年7月)
- 米国と中国との貿易関係が悪化(2018年9月)
- 日経平均株価が下落トレンドへ(2018年10月)
- 日産ゴーン会長の逮捕(2018年11月)
- 中国ファーウェイ副会長の逮捕(2018年12月)
《2019年に予定される主な出来事》
- ダブル連結トラックの規制緩和(2019年1月)
- パチンコ遊技台の規制緩和(2019年2月)
- 入国管理法の規制緩和(2019年4月)
- 新天皇陛下の即位、元号変更(2019年5月)
- 5G通信のプレサービス開始(2019年夏頃)
- ラグビーワールドカップの日本開催(2019年9月~11月)
- 消費税10%への改定(2019年10月)
- 東京2020オリンピックまであと1年
2019年のトレンドを端的に表すと「働き方」を大きな柱として、多様な変化が起こり、仕事をしていく上での価値観にも影響を与えていくことになりそうだ。小売業、飲食業、運輸業、医療、介護などの現場では人手不足は深刻化している一方で、AI、自動運転、店舗の自動化など、省力化のテクノロジーも次々と実用化されていくため、労働者の立ち位置にも変化が生じていくことは避けられない。
また、2019年4月に予定されている入国管理法の改正では、人手不足の分野で「特定技能」の在留資格を新設して、外国人労働者の受け入れを容認する。それに伴い、介護、ビルの清掃、飲食店などの職場で、外国人が合法的に働きながら日本へ定住することも可能になる。さらに来日後の就労から5年経過した後には、母国から家族を呼び寄せることも可能になるため、日本に住む外国人の増加が、高齢化による人口減少を相殺する形で、新たな日本経済が形成されていくことも考えられる。
そうした中で、日本人の働き方のスタイルや価値観がどのように変化していくのかを捉えることが、新たなビジネスや投資のチャンスを掴む上でも重要になってくる。
【AIが自己増殖していく電子社会】
人工知能(AI)の進化は2016年頃から急速に高まり、そのスピードは指数関数的に伸びている。2020年頃には、スーパーコンピューターを使わずとも、1000ドル前後のパソコンでもAIを動かせるようになり、その後の5年~10年でAIは人間の頭脳を完全に上回るとみられている。これは「技術特異点(シンギュラリティ)」と呼ばれて、そこから先はAIが自己増殖していくことが予見されている。
既に、その兆候として現れているのは、人工知能の核となるAIアルゴリズムが次々とオープン化されていく動きである。IBMの「Watson(ワトソン)」はIBMクラウドへの会員登録をすれば、初期のライセンス料や月額料金を払うことなくAIシステムのエンジンとして活用することが可能で、開発したAIシステムが稼働した後に、APIの呼び出し回数が基準値を超えた場合に、従量課金される仕組みになっている。
そのため、外部の企業がAIサービスのテスト開発にチャレンジすることが容易で、その中で使い勝手の良いシステムが、実際のビジネス環境を変えていくことになる。具体的には、カスタマーサポートのコールセンターが、自然言語で応答できるAIアシスタントを導入したり、保険会社が保険金請求の審査業務を自動化するシステム、自動車の故障箇所を診断するシステム、局地的な豪雨を予測するローカル気象予報などで、WatsonのAIエンジンが活用されはじめている。
また、グーグルは自社サービスとして提供しているGmailのメール分別、Googleフォトの写真認識、YouTubeの広告配信、翻訳機能などの根幹となっているAI技術を、「TensorFlow」というAI開発ツールとして、オープンソース化して無償公開している。これにより、世界の研究機関やメーカー企業は、自社の製品にAI機能を組み込みやすくなる。
■TensorFlow(日本語)
《TensorFlowで実装できるAI機能例》
- 家電や自動車に搭載される音声認識機能
- スマートフォンに搭載される音声検索機能
- 外国人旅行者向けの自動翻訳サービス
- コールセンターで導入される顧客の感情分析
- 金融や保険業界の審査機能(書類の不備や不正を検出)
- ニュース記事の要約や分析
- 人物や物の画像認識(防犯カメラ等)
- 医療画像の自動診断
- 購入履歴分析によるオススメ商品のレコメンド機能
これらのAIは、機械学習をするデータ量が増えるほど能力を高めることができる。
そこで分析されたデータパターンの特性は一つのアルゴリズムとして集約され、また次のレベルのAIへと進化していく。これは、人間が長時間の学習を経て習得した知識を元に、次の学習をして次第に能力を高めていくプロセスと似ている。
ただし、人間の頭脳には成長の限界があるが、AIは無制限に能力を高めていくことができる。そのため、AIを開発する企業では、ソフトウエアを無償公開してでも、成長速度を高めようとしている。
米国と中国の大学との共同研究として、2017年に発表された「IntelligenceQuotient and Intelligence Grade of Artificial Intelligence」という論文で、検索エンジンに搭載されるAIの能力を、人間のIQレベルと比較したところでは、2014年の時点では人間(18歳)のIQが97に対して、Googleは26.5だったのが、2016年には47.2にまで成長している。
AIが人間のIQを完全に上回った後には、すべての業界や職種でAIが関与するようになり、人間の仕事や生活のスタイルにも大きな変化が訪れることになる。
※出所 https://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/1709/1709.10242.pdf
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■JNEWS会員レポートの主な項目
・AIが自己増殖していく電子社会
・オープンソースで広がるAI開発の動向
・AI社会で変わる人間の役割と働き方の意識
・世界と比較した日本人の幸福度について
・ワークライフバランスと幸福度の関係
・幸福度が高い北欧のワークスタイル
・入管法改正に伴う外国人労働者の受け入れ事業
・外国人移民者が牽引する日本再生
・外国人定住者向け不動産ビジネスの動向
・変化する米国経済と日本の立ち位置
・米国経済に起きている3項目の変化
・技術実習制度を起点とした外国人労働者仲介ビジネス
・人手不足を解消するセルフレジ導入の課題とテクノロジー
・第4次産業革命が引き起こす雇用の地殻変動と代替労働力
■この記事の完全レポート
・JNEWS LETTER 2018.12.28
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