趣味+副業として取り組むマイクロ野菜の水耕栽培

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JNEWS会員配信日 2016/6/20

家庭菜園は、植物を育てることの楽しみと、自分で収穫した野菜を食べることの感動、子どもの教育(食育)にも役立つなど、いくつもの利点がある。ただし、野菜作りをするには土地が必要なことから、家庭菜園を実践しているのは、庭のある一戸建てに住んでいる人に限られてしまうのが実情だ。

しかし近年では、室内で野菜を育てる技術が進化してきたことから、アパートやマンション暮らしの人でも、レタス、トマト、ハーブ類などのミニ野菜を育てて収穫できる水耕栽培キットが各種販売されるようになっている。

水耕栽培の仕組みは、スポンジの培地にミニ野菜の種子をセットして、液体肥料と水だけで育てるもので、発芽から発育するまでの期間は、野菜の種類によっても異なるが、2週間から1ヶ月程度で収穫できるものが多い。

このように水耕栽培された野菜は、米国では「Microgreens(マイクログリーン)」と呼ばれており、2014年に米農務省が25品種(赤キャベツ、パクチー、アマランス、緑ダイコンなど)を調査したレポートによると、熟成栽培された通常の野菜と比べて、ビタミンC、E、カロテンなどの栄養素が約5倍も多く含まれていることが明らかになっている。

Specialty Greens Pack a Nutritional Punch(米農務省レポート)英文

マイクログリーンの栄養価が高い理由は、人工の蛍光灯や LED照明を常時当てることで、光合成が活発に行われるためとみられている。マイクログリーンの栽培は、収穫までの期間が短く、栄養価が高い、しかも農薬を使わないため安全、という一石三鳥のメリットがあることから、一般家庭が手軽にできる自給自足のスタイルとして流行ってきている。さらにそこから飛躍して、収穫した野菜を収益化する道筋もある。

水耕栽培は、培地の作り方や LED照明の当て方によって栽培できる野菜の品種を増やしたり、品質を高めていくことが可能なため、専門の栽培キットを開発することが、新たなビジネスチャンスとして浮上してきている。

米国では、ビルや倉庫で空いている小スペースで水耕栽培をする都市農業の形も登場して、オーガニックな食材の新たな供給源として機能しはじめている他、太陽光発電のような投資対象としても注目されている。

【家庭向け水耕栽培キットの開発動向】

 日本でも家庭用の水耕栽培キットは幾つか販売されているが、この市場は成長途中の段階にある。キットの特徴としては、室内で野菜を本格的に育てるというよりは、観葉植物のように、部屋のインテリアとしても使える外観重視の商品が多い。

新興家電メーカーのユーイングが販売する「グリーンファーム」は、アクリル製ケースの中で、観葉植物のように野菜を栽培できる水耕栽培器で、種子キットの中に含まれる栽培スポンジに種子をセットすれば、液体肥料を含む養液が適量ずつ染み込む仕組みになっており、毎日の水やりは不要。発育に必要な光は、タイマーによって LED照明が管理され、ケース内の湿度を一定に保ち、上昇気流を作るための排気ファンも設置されている。

栽培できる野菜の品種は、特に限定されているわけではなく、ケースの大きさによって、レタス、サラダ菜、春菊、イタリアンパセリ、パクチー、ミニトマトなどの栽培が可能だ。

ケースのサイズが約22センチ四方の「グリーンファーム・キューブ」は実売価格が10,000万円、その2倍の大きさがある「グリーンファーム」は、25,000円前後となっている。

家庭用水耕栽培器グリーンファーム

ただし、これらのキットを購入すれば、誰でも確実に野菜が栽培できるわけではなく、部屋のインテリアを兼ねた、水耕栽培の仕組みを学べる教材キットとして考えたほうが良い。そこから水耕栽培への興味関心が高まれば、さらに本格的な栽培システムを自作したり、効率の良い栽培ノウハウを研究することで、趣味+サイドビジネスとして楽しめるようになる。

海外では、独自のアイデアや工夫を活かした水耕栽培キットが多数開発されて、特許商品としての価値を高めている。

カナダの都市農業ベンチャー、Omega Garden社が開発している水耕栽培システムの「Volksgarden」は、円筒のドラム型ユニット中央部にある光源を囲むようにして、円周上に野菜の苗を80個まで装着することができる。ドラムは、すべての苗に対して均等に光が当たるように回転していくため、太陽光のように時間帯や場所による、日照の偏りが無く、通常よりも5倍のスピードで促成栽培をすることができる。この仕組みは国際特許によって権利が守られている。

ユニットを積み重ねていけば、狭い倉庫の中でも大量の野菜を栽培することが可能で、本格的な植物工場としてのビジネス展開も想定されている。価格は1ユニットあたり1,999ドル(約22万円)の設定。

Omega Garden

【魚飼育と水耕栽培を両立させたシステム】

 家庭向け栽培キットの新トレンドとして浮上しているのが、魚の飼育と野菜の水耕栽培を組み合わせたもので、「アクアポニックス(Aquaponics)」と呼ばれている。

魚を飼育すると、水槽内で排泄物やアンモニアが生成される。これは魚の生育環境としては良くないが、そこに水耕栽培を組み合わせると、微生物がアンモニアを分解することで、植物の栄養素として吸収されやすくなる。これは植物の成長を助けるものであり、水槽の水を浄化する効果もある。魚の飼育と水耕栽培との相性は良いことから、両者を融合させることが注目されている。

アクアポニックスに着目したビジネスには、大きく二つの切り口がある、一つはアクアポニックス用のキットを独自開発して販売することだ。米国では、家庭用のキット開発を手掛けるスモールメーカーが増えている。

米カリフォルニア州のEcolife社が開発した「ECOサイクル・アクアポニックス」は、20ガロン(約70リットル)の水槽の上に、高出力のLED蛍光灯を光源にした水耕栽培のラックを載せたキットで、鑑賞用の魚を飼育する水槽内を循環した水が、水耕栽培のトレイに流れて植物の培地に染み込んでいく。その水は濾過されて、再び水槽に戻る仕組みになっている。

このキットの実売価格は 290ドルで、もともとは、魚と植物で形成される生態系を観察できる教育用として開発されたものだが、インテリアとしても癒されることから、一般家庭や企業オフィスへと販路が広がっている。

Ecolife社
米アマゾンでのキット販売ページ
■ECOLIFE ECO-Cycleキットの解説ビデオ

アクアポニックスは、ただ完成品のキットを販売するだけでは、ユーザーが理想の生態系を作ることが難しいため、ワークショップやセミナーを開催して、どのようにしたら、野菜が育ちやすい環境を作れるのかを指導したり、ユーザー同士がノウハウを共有できるコミュニティを運営することが重要になる。これが、アクアポニックス事業を成功させる二つ目の切り口だ。

Ecolife社もそこに力を入れており、一般ユーザー向けにはワークショップを有料で開催している。さらに、教育機関向けには「スクール・アクアポニックス・プログラム」というコースを創設して、小中学校が助成金でキットを購入しやすくなる道筋を作り、魚と植物の生態系を上手に再現するためのアドバイスや、講師の派遣なども行っている。

日本でも、水耕栽培やアクアポニックスのキットを開発、販売する会社が出てきているが、購入者のレビューでは『上手に育たなかった』というレビューも少なくない。それは、必ずしもキットの性能が悪いということではなく、ユーザー側の栽培方法にも問題があるため、キットの販売と教育活動とを同時に行っていくことが、この市場を成長させていくためのポイントになる。

【家庭菜園を収益化する方法と視点】

 水耕栽培の設備は自作することも可能なため、サイドビジネスとしての収益化を目指して取り組む人も増えている。水耕栽培は、自宅のガレージや倉庫などの空きスペースを利用して、 200ドル程度の予算からスタートすることができる。

「Home Aquaponics System」は、アクアポニックスの設備構築を解説したサイトで、アマゾンと連携したアフィリエイトで、お勧め機材の紹介(ウォーターポンプ、LEDライト、水槽の温度を管理するためのヒーター等)を紹介したり、ハウツーDVDの販売をしている。水耕栽培ユーザーの中には、このようなハウツーサイトを運営することで、知識を収益化している例は少なくない。

Home Aquaponics System

個人が水耕栽培から収入を得る方法としては、収穫した野菜を地域のフリーマーケットに出品したり、サラダなどの食材として仕入れてくれるレストランを探すのが一般的である。

しかし、プロの生産者と価格競争をしても勝ち目はないため、農薬を使っていない野菜であることを強みにすることや、水耕栽培者の中でも、他の人が手掛けていない品種を栽培することが、商品としての付加価値を高めるための策になる。

米国で「マイクログリーン」と呼ばれる、サラダ用のミニ野菜は、2週間程度で収穫できることから、個人の副業として手掛けるには適しており、収穫量1ポンド(約450グラム)あたりで、20ドル以上の収益を上げることが目標と言われている。それ以外でも、単価が高くてニッチな作物を見つけることが、家庭菜園を高収益化させるための急所だ。

「Profitable Plants Digest」は、クレイグ・ワーリン氏という家庭菜園の専門家が、収益性の高い植物を栽培することに特化した情報を提供しているサイトで、ラベンダー、シイタケ、マイクログリーン、ニンニク、竹、薬用のアメリカニンジン、エアルーム・トマトを高収益作物として選定し、それぞれの栽培ノウハウや、販路の開拓方法を解説した電子書籍を販売している。

Profitable Plants Digest

《家庭菜園に適した高収益作物の特徴》

  • ラベンダー
    食用ではないが、アロマオイル、フラワーアレンジメント、石鹸、化粧品などの原料として販売することができる。生花の他に、乾燥させた状態でも販売できるため、年間を通して安定収益を得ることが可能。
  • シイタケ(椎茸)
    おがくずや藁などを菌床として、屋内の自然光で栽培することにより6~8週間で収穫することができる。1平方フィート(30cm四方)スペースから、年間で25ポンド(約11kg)の収穫が期待でき、スーパーなどの小売価格は1ポンド(約453g)あたり16ドル、卸価格はその2/3が相場となっている。※米国で流通するシイタケは、日本よりも高い。
  • マイクログリーン
    土を使わずに、水耕栽培によって種子を発芽させて促成栽培されたミニ野菜。普通の野菜と比べて栄養価が高く、清潔なため、レストランなどからサラダ用、メインディッシュの添え野菜としての需要がある。一般的なマイクログリーンの野菜品種としては、アマランス、ルッコラ、ビート、バジル、キャベツ、セロリ、フダンソウ、コリアンダー、クレソン、ケール、マスタード、パセリ、大根、スイバなど。
  • ニンニク
    抗菌性が高いため有機栽培がしやすく、成長してもサイズが小さいため、小スペースでの生産にも適している。一般家庭やレストランで料理用として使われる他、健康食品や、人体に安全なオーガニック殺虫剤としての需要もある。収穫してから日持ちがするため、フリーマーケットなどでも販売がしやすい。

  • 米国では、造園、建築資材、家具や工芸品の材料、鑑賞用としての「竹」が人気となっている。直径35センチ前後の鉢で栽培された竹は、約30ドルで販売されている。竹の成長力は強くて早く、上手に株分けをしていけば、短期間で鉢の数を増やしていけるため、少額の資金からスタートするサイドビジネスに適している。
  • アメリカニンジン(薬用植物)
    北米からカナダが原産地の薬用植物で、朝鮮人参に似た強壮作用があることから天然サプリメントとしての需要が広がっている。植え付けから収穫までの期間は4~6年と長いが、種子と成熟した根を販売することで高収益が期待できる。アメリカニンジンの種子は、1ポンド(約453g)あたり100~150ドル、根は1ポンドあたり400~500ドルの価値がある。なお、中国産のニンジンは安全面の懸念があることから、米国では純国産品であるアメリカニンジンの人気が高い。
  • エアルーム・トマト
    プロの農家が生産するトマトは、サイズが均一で色の見栄えが良く、病害虫や農薬にも耐えるように品種改良がされている。それに対して、エアルーム・トマトは、形や色が不揃いな伝統品種で有機栽培に適している。品種改良されたトマトに比べて味が良く、栄養価も高いことから、レストランや自然食スーパーでの取り扱いが増えている。ただし、大量生産には向かないことから、小規模な有機農園や家庭菜園が主な供給元になっている。

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