社内人脈を活用したリファラル採用によるリクルートモデル
企業が人材を採用するのにかかる費用は、1人あたりで計算するとアルバイトが約5万円、正社員は50万円前後と言われている。企業の知名度や募集方法によっても異なるが、中堅規模の企業が、求人広告で中途採用をする場合には、年間で 250万円程度の予算をかけるのが平均値。そこで5人の人材(正社員)が獲得できれば、1人あたりの採用コストは50万円という計算になる。しかし、求人広告を大きく掲載したからと言って、優秀な人材が集まるとは限らない。
現在は終身雇用の時代ではなく、人材の流動性は高まっているため、常に新規の人材を獲得していかなくては、企業の人的リソースは低下してしまう。これからは若年人口が急速に減少していくため、景気の良し悪しは別にして、慢性的な人材不足が深刻化してくることは間違いない。
人材の定着率が低い「飲食業界」では、時給を上げても人材が集まらないことによる業績悪化が既に起きており、求人広告以外での人材獲得ルートを開拓することが急務の課題になっている。
IT業界でも、高度なスキルを持つエンジニアの人材難が、事業の成長スピードを鈍らせる要因になっている。そのため、グーグル、ヤフー、フェイスブックのように資金力のある企業は、人材を一人ずつ採用するよりも、新興企業を買収して多数のエンジニアを丸ごと獲得する策を積極化してきている。
これは、「買収(acquire)と「雇用(hire)」を掛け合わせて「アクハイヤー(Acqui-hire)と呼ばれている。仮に、手掛ける事業が上手くいっていない新興企業でも、優良な人材が揃っていれば、その価値が評価されて、買い手となる企業が現れる。
一方、日本の中小企業では、高額の採用コストをかけられないことから、独自の工夫によって優良な人材を獲得していくことが、事業を存続させていく上での鍵になる。
中小企業白書によると、大企業を除いた、中小企業と小規模事業者の人材採用ルートとして最も多いのは「ハローワーク」だが、その次に多いのは、「友人、知人の紹介」ルートであることは意外と知られていない。
ハローワークは無料で利用できるのが利点だが、応募してくる人材の質が良くないことが、同白書の中でも指摘されている。その点、「友人、知人による紹介」は良い人材が集まりやすいが、紹介される人数が少ないことがネックとなっている。
しかし、最近はソーシャルメディアで友達が繋がりやすくなっていることから、紹介人数を増やしていくことは可能だ。2015.12.28号(2016年の着目点)でも紹介したが、米国ではSNSを利用した紹介採用(リファラル採用)が急成長している。今回のレポートでは、その仕組みに加えて、同窓会のネットワークを活用した人材採用の動きについても解説していきたい。
【リファラル採用の仕組みと利点】
欧米ネット企業の人材獲得ルートでは、求人広告よりも紹介採用(リファラル採用)のほうが主流になってきている。従業員の友人、知人の中から候補者を紹介してもらうことは以前から行われてきたが、フェイスブックなどで人脈を辿りやすくなったことで、企業と友達のマッチング件数は飛躍的に向上している。
「Jobvite」は、企業のソーシャルリクルーティングを支援するためのプラットフォームで、ネット上の求人媒体や自社サイト、SNSなどから応募してきた人材の情報を一元管理することができるが、その中でも重視されているのが、紹介機能である。
人事管理機能と、従業員のフェイスブック、リンクドイン、ツイッターのアカウントを連結させることができ、企業が発信する採用情報を、従業員の友達にまで届けることが可能になっている。友達が応募をした後の審査過程についても、紹介者の従業員と共有することができる。
■Jobvite
■ソーシャルリクルーティングの紹介映像
Jobviteの調査によると、各従業員が個人として保有するフェイスブックのアカウントには平均で150名の友達が登録されている。単純にみると、100人の従業員がいる企業では 15,000人が採用ターゲットとなるわけで、これは求人広告媒体よりも価値が高い。
友達人脈から採用した人材は、他の求人ルートよりも入社後の満足度が高く、離職率が低いことが実証されている。また、応募者のバックグラウンドが把握しやすいため、求人募集から採用決定までの期間が短くて済むのも、紹介採用の特徴である。
ソーシャルリクルーティングの手法として、リファラル採用の仕組みが普及しはじめたのは、2012年頃からのことだが、従業員に友達を紹介してもらう動機付けとして、当初は金銭報酬が主流になっていた。一般職の社員を採用できた場合には 500~1,000ドル、幹部社員なら 1,500~2,500ドルのボーナスが、紹介者の従業員に対して支払われるのが相場だ。
現在でも大筋は変わっていないものの、金銭報酬を払うことの弊害も指摘されるようになってきている。問題として一番大きいのは、「友達を紹介することで金銭を受け取ること」への罪悪感で、入社後の友達関係が壊れてしまうことを懸念する社員もいる。
そこで、最近では金銭報酬の代わりとして、有給休暇の追加、ギフトカード、旅行、スポーツ観戦のチケット、高級レストランのディナー、慈善団体への寄付など、緩やかなインセンティブに切り替える企業も増えてきている。
従業員向けの人材紹介プログラムは、報酬を高額につり上げれば成功するものではなく、社員が職場の環境や仕事内容に満足していなくては「友達を紹介しても良い」という気持ちにはならない。
そのため、新たなリクルートビジネスとして、リファラル採用のシステムを開発する場合には、金銭や物品のインセンティブに重心を置くよりも、ソーシャルメディアに対応した人事管理機能を充実させていくことを柱として考えたほうが良い。仕事の満足度が高い従業員に対して、求人情報を投げかければ、自ずと友達の紹介率は高くなる。
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