JNEWS会員配信日 2015/12/18
スポーツは体力と精神力を鍛える上で重要な役割を担っているが、“怪我をする”というリスクを常にはらんでいる。昔は運動会の花形種目だった「組体操」も、近年では安全性を考慮して中止する学校が相次いでいる。
世論が過剰に反応して種目自体を消滅させてしまうのは良くないが、科学的にデータ分析により、重大な怪我が生じる確率の高いリスクを発見して、安全対策の強化やルールの変更をしていこうというのが最近の流れで、そこに新たな市場が生まれている。
米国では、ここ数年で「スポーツによる脳震盪(しんとう)の後遺症」が大きくクローズアップされるようになってきている。
発端となったのは、2002年に、元NFLのアメリカンフットボール選手のマイク・ウェブスター氏が50歳で亡くなった際、正確な死因を調べるために遺体を解剖したところ、脳が大きなダメージを受けていたことが確認されたことである。NFLを引退後の同氏には、記憶障害やうつ病の症状があり、その他の問題行動もあったことから、原因究明のために解剖が行われたのだ。
その結果、頭を強打されたボクサーに酷似した脳障害が発見された。そこから、他のNFL選手にも検査が行われ、練習や試合中に経験した脳震盪の影響は、それまでに考えられていたほど軽いものではなく、何年かした後に、慢性的な脳障害や認知症など、深刻な後遺症を起こすことが明らかになってきた。これは「セカンドインパクト・シンドローム」とも呼ばれて、スポーツ界全体を巻き込む大問題に発展している。
《脳震盪が原因で考えられる後遺症例》
○慢性的な頭痛、吐き気、脱力感
○アルツハイマー病などの認知症
○うつ病
○言語障害、記憶障害
○平均寿命が短い(50〜60歳代)
そのため、約4,500人の元アメフト選手がNFLに対して集団訴訟を起こし、2013年にNFL側が7億6,500万ドル(約750億円)もの巨額な賠償金を払うことで和解している。こうした状況は、2015年末に米国で公開される映画「Concussion(ウイル・スミス主演)のテーマとしても描かれている。
脳震盪は、意識を完全に失わなくても起きていることがあり、プロに限らず、アマチュアのスポーツでも起きる確率が高いことも実証されてきている。
子供の脳は、大人と比べてダメージの回復が遅いために、複数回の脳震盪を経験することによる長期的な後遺症が懸念されている。そのため、米国の各州では、学校の部活動や地域クラブなどに加入するときには、子供と保護者に対して、脳震盪のリスクについて説明することを法律で義務化するようになってきている。
それに伴い、スポーツをしている時に、頭部への衝撃を感知する安全システムの開発が新市場として急速に伸びている。
日本でも、学校の体育授業や少年スポーツの現場で、こうしたリスクを理解した上で事前の対策を講じていかなければ、時間が経過した後に後遺症が生じた時に訴訟問題となる可能性がある。
スポーツに限らず、企業の従業員や高齢者が怪我や事故を起こすリスクに対しても、安全対策は強化される風潮になっていることから、安全分野での新たなビジネステーマを掘り起こすことができる。(この内容はJNEWS会員レポートの一部です。→記事一覧)
■JNEWS会員レポートの主な項目
●脳震盪対策グッズの開発ビジネス
●集団訴訟で拡大する脳震盪の対策市場
●保険会社が求める高齢ドライバーの安全システム
●職業病を緩和するエルゴノミクス・ソリューション
●コンピュータビジョン症候群と専用メガネの商品開発
●LED照明全面切り替えに向けた新ビジネス
●IoTビジネスの幕開けと家電メーカーのビジネスモデル転換
●高ストレスのメカニズムを読み解くメンタルヘルス対策市場
■この記事の完全レポート
・JNEWS LETTER 2015.12.18
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