開業医向けIT支援サービスと集客マーケティングの未開拓市場
医療サービスへの需要は高まる一方で、病院の経営は厳しさを増している。医療財源のひっ迫による診療点数の引き下げや、医師の人材不足、高度な医療機器への投資などで、経営難に陥る医療機関が増えており、厚生労働省の調査では、自治体などが運営する公立病院の85%、私立病院の35%が赤字である。そのため、入院設備を持つ病院の統廃合が全国的に進んでいる。
その一方で、医師が個人開業する一般診療所は年々増えており、特色のある診療サービスを打ち出していかないと、新規の患者を獲得することが難しくなってきている。
医院やクリニックと呼ばれる、個人開業の診療所では、月間の売上(医業収入)が平均で約700万円あり、建物の家賃、看護師などスタッフの人件費、医薬品や材料費、医療機器のリース代などを差し引いた利益(医業収支)は200万円前後/月で、これが開業医の実質的な所得になっている。
ただし、開業時の借入金返済や、設備の老朽化に備えた積立金なども、この中から賄っているため、勤務医やサラリーマンの「給与」とは性質が異なるものである。
新規開業の診療所が経営を軌道に乗せるには、月間で約1千人の来患者数が必要と言われており、初診患者が2割、再診患者が8割という構成が平均的。つまり、毎月のペースで 約200人の初診患者を集客することが、開業医にとっては重要な課題になる。
これまでは、何もしなくても“街の診療所”として、近隣の住民が訪れてくれたものだが、近頃は、遠方でも評判の良い医師に診てもらいたいというニーズが高まり、開業医も集客方法を意識する必要性が高まっている。その中でも、ネットでの情報発信力が長けているか否かで、初診の患者数に差が生じている。
ところが、診療所のホームページ開設率は高くはなく、競争が激しい歯科医院でも2割未満となっている。その要因には、医師が日々の診療業務で忙しいことに加えて、広告規制による表現の難しさがある。
医療機関がホームページを開設したり、広告を出すことは認められているが、厚生労働省が定めたガイドラインに抵触しない範囲で情報発信をしなくてはいけない。たとえば、サイト上に掲載する診療科名は、法令で定められた項目に限られており、規定外の表現はNGだ。
診療サービスの内容を紹介する場合でも、「2週間で90%の患者で効果がみられます」のように、治療の具体的な効果を示してはいけないし、治療の前と後とを比較した写真を掲載することも禁止されている。
しかし、医師や看護師の氏名、年齢、経歴などを、写真や映像付きで紹介することや、導入している医療機器の説明をすることはOKと、広告に関するルールが非常に入り組んでいる。
■医療広告ガイドラインに関するQ&A事例集(厚生労働省)
そのため、医療機関の集客マーケティングについては、広告規制を熟知した医療専門のホームページ制作会社や広告代理店の役割が求められ、しかも、地域単位のスモールビジネスとして成り立ちやすい。意外にも、開業医向けの集客支援市場は開拓が遅れている。
医療サービスの集客では、料金の安さよりも、医師や治療技術の信頼性をアピールすることが重要なため、広告規制をクリアーしながら、効果的なマーケティングの手法を考案するセンスが必要だ。また、起業したばかりのホームページ制作会社などが、開業医とのコネクションを築くことは難しいため、医療業界の構造を理解しておくことが役立つ。
【街の診療所が起点となる医療マーケティング】
最近の体調が芳しくなく、深刻な病気に罹っているかもしれないと思った時に、いきなり大病院の名医に診てもらいたい人は多いかもしれないが、今後はそれが難しくなる。
これまでにも、医師の紹介状を持たずに、評判の良い大病院で診察を受けることは難しかったが、国の方針としても、大病院の混雑を緩和するために、2016年以降は、紹介状を持たずに、大病院で受診した患者には特別料金(5千~1万円)の加算を義務化していくことが、国会で検討されている。
この政策が決まれば、患者が診療を受けるルートとして、最初は地域の開業医に診てもらい、深刻な病気の疑いがあれば、詳しい検査や専門的な治療に適切な病院を紹介してもらう道筋が固まることになる。
そのため、病気の治療は、地域の診療所を訪れることが起点となり、どの医院やクリニックが良いのかを調べることが、患者にとって重要な作業になる。紹介状を書いてもらう場合にも、「どの病院の医師を紹介してもらえるのか」は、その開業医の出身大学や人脈に依るところが大きい。
しかし、中小診療所の詳しい情報は入手しにくいのが実情。これは、新規患者の獲得チャンスを逃していることになることから、診療所向けの情報発信やマーケティングを支援する業者の役割が必要になる。その方法は、ネットとリアル両方で展開していくことが効果的である。
ネットでは、ホームページを開設ことが定番。ただし、広告規制を意識すると「診療案内」「診療時間」「スタッフ紹介」など、最小限の内容になってしまいがちだが、医師のブログやフェイスブックでの情報発信も交えていくことが望ましい。医師が健康に役立つ知識を書いたコラムなどは、一般ユーザーからも人気のコンテンツになる。
また、診療の混在状況がサイト上からリアルタイムで確認できるようにしたり、オンライン予約を受ける機能を設けることも、集客への効果が見込める。
リアルなマーケティング例としては、診療所を開業する際に、地域の住民を対象とした内覧会を実施して、院長とも直接対話できる機会を設けることは、地域内の口コミをダイレクトに伝えられる効果がある。また、自治体や町内会と連携した健康セミナーや講演会を開催するのも、診療所の間接的な宣伝になる。
一般の患者が“よい医者”と判断する項目は、医学の知識に秀でているだけではなく、「人柄が良い」「話しやすい」などの人間性も重視しており、医師の情報発信量を増やすほど、診察の門をくぐりやすくなる。
こうした集客ノウハウは、マーケティングの基本的な項目だが、開業医の平均年齢は59歳と若くはなく、医学の専門以外には詳しくないことから、中小の診療所をターゲットとした、IT支援や医療マーケティングの専門会社、コンサルタントが登場してきている。
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・街の診療所が起点となる医療マーケティング
・医師と医薬品メーカーの蜜月関係について
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・開業医が求めるマーケティング媒体
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・開業医向けオンライン集客の支援サービス
・8割が赤字に陥る健康保険組合の運営立て直しモデル
■この記事の完全レポート
・JNEWS LETTER 2015.5.30
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