エリート女性が意識しはじめたバイオロジカル・クロック
日本で「少子化対策」という言葉が使われるようになったのは、今から20年以上前のこと。平成元年(1989年)の合計特殊出生率が1.57となり、「ひのえうま」にあたる1966年(昭和41年)の出生率(1.58)を下回ったことが契機になっている。これは「1.57ショック」と呼ばれ、そこから政府は、毎年数千億~1兆円超の予算を組んで、様々な少子化対策を講じている。しかし、その後も少子化に歯止めはかかること無く、2017年の出生率は「1.43」と低迷している。
少子化は、世界の先進国に共通した傾向で、その原因については色々と分析がされているが、結婚する年齢が遅くなっていることが最も根底にあり、高学歴の女性ほど、婚期が遅れる傾向にある。22~24歳で企業に勤め始めたとして、ようやく面白い仕事ができるようになってきた頃に休職するのではタイミングが悪い。そのため、仕事を中心の生活を続けていくうちに、結婚~出産のタイミングが遅れてしまう。米国の統計でも、年収の高い女性ほど婚期が遅いことが明らかになっている。
近年では、医療技術の進歩により、高齢でも比較的安全に出産できるようになってはきたが、やはり不妊に悩む人達が増えているのも事実である。今後は、女性のキャリア形成と出産とのタイミングをどう取るのかが課題であり、米国では「バイオロジカル・クロック(生物学的時計)」という考え方が意識されるようになってきた。
これは、女性の出産適齢期にあたる時期の人生設計を、バイオロジカル・クロックを基にして組み立てていこうとするものであり、まずは出産のタイミングを決めて、その後に、仕事のキャリア設計をしていこうとするものだ。特に、生涯を通して働きたい女性にとって、バイオロジカル・クロックに基づいた計画を立てることは重要で、そのための支援体制や関連のサービスも整ってきている。それが具体的にどんな内容なのかに加えて、米国の不妊治療がどこまで進んでいるのかについても解説していきたい。
【バイオロジカル・クロックとは何か?】
米国では1970年代から、高いキャリアを求める女性が増えて、大卒や大学院卒の高い学歴を取得して、社会に出てからも重要なポジションで働く人達が珍しくなくなった。しかし、2000年頃からは、こうした女性の晩婚化が顕著になり、高齢で不妊治療を受けても、妊娠に至らなかったことなどが報道されるようになった。
このテーマに明るい女性経済学者シルヴィア・ヒューレット氏の著書「Creatinga Life」によれば、20年前に40代で子どものいない女性はおよそ9%だったが、現在はその2倍に増えている。その中でも、年収55,000ドル以上の層では、40才の時点で33%に子どもがいない。
仕事の実績を得るために出産を諦めたことや、ある程度のキャリアを積んでから子どもを産みたいと考えていたが、高年のため妊娠、出産は難しかったことが、彼女達の後悔として語られている。そこから、女性のキャリア形成を考える上では、バイオロジカル・クロック(生体時計)の問題を無視できないという声が高まってきた。
高学歴、高キャリア女性の多くは、普段から身体のエクササイズに取り組み、体調の管理にも熱心で、「健康であれば、高齢出産もできるはず」または「不妊治療を受ければ妊娠できる」と考えていたという。しかし、実際には健康を維持していても、バイオロジカルな老化は避けられず、高年齢になると不妊治療の成功率も上げられないことが指摘されるようになった。
【学生時代を出産好機と捉える高学歴女性】
そうした教訓から、最近の高キャリアを目指す若い女性の中では、大学や大学院の在学中に出産を済ませてしまう人達が出てきている。特に、医学部の学生は在学期間が長く、卒業後も3~5年は研修医としての経験を積まなければ、一人前の医師として自立することができない。
しかし、医師を目指す女性は、バイオロジカル・クロックの問題を熟知しており、医療の現場に入る前の学生期間に出産するケースが出てきている。ただし、医学部の勉強は厳しく、出産後2週間ほどで、試験に間に合わせるために復学したり、妊娠中の体調不良で入院する事態に陥った学生は、病院内で試験を受けることのできる特別処置を受けた例もある。
それでも、学生のうちに出産することは、バイオロジカルの面で優れているし、医師としてのキャリアを中断しなくて済むなど、メリットが大きいことに大学側でも気付き始めており、出産を希望する女子学生に対して支援の体制を整えている。
スタンフォード大学でも、学士以上の学位を取得している女子学生を対象に、出産を支援するための方針を定めている。在学中の学生が妊娠した場合には、必要な単位取得の期限を延長できることや、病気にかかったときと同じように、一定期間、学業を休んでもよいことなどが方針に盛り込まれている。また、母体に危険な成分を含む実験などに関わっていたり、野外での重い肉体活動を要する授業に関しては、個々に相談対応するようになっている。
また、コロンビア大学でも、同様の出産に関する支援方針を決めている。通常の出産に関しては、8週間の休みが認められていることに加えて、帝王切開やその他の事情によって、休みをさらに延長することも可能だとしている。
また、博士課程で学生の指導にあたっている場合は、その講義の義務を一時的に免除される他、研究活動に関しても一時的に免除される。このコロンビア大学の方針は、博士課程の科学とアート専攻に限られるが、8週間の出産休暇は、配偶者の出産にも適用されるため、新たに父親となる男子学生でも取得することができる。
『就職をしてから出産をするより、時間と体力に余裕がある学生時代に出産を終えた後に、仕事上のキャリアをスタートしたほうが賢い』という考え方は、エリート学生の間で次第に浸透しはじめている。彼らの多くは、学生結婚をした上で出産をしているが、米国では、未婚のまま出産したとしても差別的な待遇を受けるようなことは無い。大学でも、出産する学生に対して、既婚・未婚を問わず同じ内容の支援をしている。
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■JNEWS会員レポートの主な項目
・バイオロジカル・クロックとは何か?
・学生時代を出産好機と捉える米国の高学歴女性
・女子医学生のバイオロジカル・クロックを意識したキャリア形成
・自宅でできる不妊治療キットの潜在市場
・男性のプライバシーに配慮した顕微鏡検査キット
・自己経験からスタートした不妊治療ビジネスの起業
・他者からの精子提供を仲介する精子バンクの仕組み
・米国の卵子提供と代理母の紹介システムについて
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■この記事の完全レポート
・JNEWS LETTER 2012.5.11
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