オープンな職場と仲間を好むコワーカーの就労スタイル
3月11日の地震発生後、数日のうちに様々なボランティア活動が各所でスタートした。ネットでも有志達による情報サイトやコミュニティが多数立ち上げられたが、その発起人として活躍したのは、通常はフリーランスとして働く個人事業者や、比較的自由な勤務体系で働いていたスペシャリスト達である。
他方、「企業」としては、組織内の意志決定が遅れて、個人よりも迅速な行動ができなかった。それは仕方の無いことで、組織の中で働いている人を責めるわけにはいかないが、今回の震災を契機にして「会社と従業員」の関係にも変化が訪れるかもしれない。
もともと、同じ会社の中で、正社員、派遣社員、パート・アルバイトといった立場の違いがあり、待遇はそれぞれ異なっているが、就業規則では同じ“従業員”として守るべきルールが決められている。チームの一員として働くには、ルールを守ることは大切だが、もっと各社員の個性や自主性が前面に出せる組織へと変革してくことが、これからの日本には必要だろう。おそらくそれは「労働者」としての働き方よりも、進化したスタイルになる。
そのヒントとして、いま欧米で注目されているのが「コワーカー(Co-worker)」と呼ばれる働き方である。直訳すると「職場の同僚」という意味になるが、それは上司と部下という関係ではなく、もっとフラットな人間関係で仕事をコラボレーションするスタイルを指している。
2011.2.22号でも紹介したが、フリーランスの仲間同士では「コワーキング ・スペース」というオフィスの形態が流行っている。これは、複数人のフリーランスで、一つのオフィスを共同利用して、各自の仕事で協力しあえる部分を出し合って業務のすそ野を広げていこうとするもので、従来の“会社”とは異なる、個の結びつきを重視した、開放的で水平な組織になっているのが特徴。
さらに、コワーカーの発想は、フリーランスだけのものではなく、企業内にも導入されはじめている。スウェーデンが本拠地で、日本でも店舗展開している世界最大の家具店「IKEA(イケア)」では、12万人いる従業員のことをコワーカーと呼び、社内の肩書きやステータスを抜きにして自由なコミュニケーションができる社風を築いている。
そのため、パートタイムで入社した人でも、社内で活躍すれば、マネージャーとして重要なポストを任されることも珍しくなく、それが同社が急成長を続ける要因にもなっている。こうした動きから、労働市場がどのように変化していくのかを考えていこう。
【多様化する労働形態と年収格差】
日本には約6千万人の労働者がいるが、その中では、会社に勤めていても実際には正社員ではなかったり、サラリーマンをしながらフリーランスの仕事(副業)を兼ねているような人もいて、労働の形態は昔よりも多様化している。しかし古い会社組織の中では、立場や肩書きが違う者同士による、オープンな協業のスタイルは出来ていないのが実態だろう。
【スウェーデン企業、イケアにみるコワーカーの台頭】
社内の肩書きや年収が低いからといって、必ずしも能力が劣っているとは限らず、非正社員の中でも逸材は眠っている。その才能を引き出すには、組織の序列を取り除いて、自由なコミュニケーションができる職場にすることが効果的。
世界40カ国で12万人の従業員すべてを「コワーカー」と呼ぶIKEA(イケア)では、オフィスに社長室や役員室などの個室は作らずに、すべてのスタッフがオープンなスペースで、コーヒーを飲みながら自由に打ち合わせができるようになっている他、社内託児所も、店の営業に合わせて年中無休で運営されている。さらに、同社専用のコミュニティ(SNS)をネット上に開設して、勤務地を超えて同社のコワーカー達が自由にコミュニケーションできるようにしている。
イケアが、コワーカーとの対話を大切にする背景には、女性が同社にとって重要な労働力となっていることがある。200名いる上級管理職の中でも4割が女性という状況だ。
女性にとって働きやすい職場とは、賃金の条件だけでなく、家庭との両立がしやすい勤務体系であることも重要。そこで、コワーカーの意見を採り入れて、フレックスタイムや在宅勤務制、ダイエットや禁煙に成功するとボーナスが支給される健康改善プログラム、年間で2~5週間もの有給休暇、働きながら学位や資格が取得できる奨学制度なども実施している。これにより、米ワーキングマザー・マガジン誌の中でも、同社は「WORKING MOTHER 100 BEST COMPANY」に選定される常連企業になっている。
もう一つ、イケアが本拠地とするスウェーデンは、人口が9百万人と小国のため、世界をターゲットとしたビジネスが既定路線であることも、オープンな職場環境と関係している。同社は世界の40カ国以上に出店して3兆円以上の売上を得ているが、そのスタッフは約12万人の従業員(コワーカー)と、1200社以上の協力工場がある。
彼らは国籍の違いにより、文化や習慣が違うし、頻繁な出張や転勤により人材が移動するのが常であることから、すべてのスタッフを平等に扱い、親しく交流させることが、組織の風通しを良くしたスピーディな意志決定に繋がり、同社の成長に貢献している。
人口こそ違うが、日本とスウェーデンは国土面積がほとんど同じで、資源に乏しい点では似ている。日本も少子化で人口が減少していくことから、今後のビジネスは、世界に目を向けていく必要があり、海外人材との交流も不可欠になる。その時に、古い組織や労働の形態では、異文化を受け入れることは難しいことから、コワーキングの発想を柔軟に採り入れることが大切だろう。
【世界で増えている非正規労働者】
非正規社員の割合が高くなっているのは、日本に限らず、欧米にもみられる傾向で、欧州では就業者に対して22%がパートタイム労働者である。しかし日本と異なるのは、正社員と非正社員の立場が平等に認められており、ワーク・ライフバランスの点から、自ら望んでフルタイムからパートタイムへの変更を希望する人が多いことだ。そのため、パートタイムの勤務で上級職に就いている人も珍しくない。
政府としても、労働市場の柔軟化を進めることで、失業者を減らす施策を進めており、その結果として、非正規雇用率が高くなることは織り込んでいる。大切なことは、非正規社員の存在を否定するのではなくて、彼らの権利や待遇を正社員と同等に引き上げることである。
とはいえ、フルタイムからパートタイムに変われば、収入は減るのは必至で、イケアにしても、コワーカーに対する待遇は良くても、平均給与の面では、他の大手企業よりも劣っている。それでも、働きやすさを優先したいという価値観は、ワーキングマザーを中心に増えている。
米国でも、労働者の非正社員率は27%を超えている。契約社員・アルバイト・派遣労働者を含めた、非正社員のことは「コンティンジェント・ワーカー(雇用が不確定な労働者)」と呼ばれており、企業が都合の良い時にだけ、低賃金で雇うことが社会問題にもなっている。
しかしその一方で、「フリーエージェント」や「独立契約者」と呼ばれる先進的な自営業者が増えているのも特徴。彼らは、企業から独立して業務を請け負う立場のため、時給で働いている労働者とは異なり、自らの裁量によってワークスタイルを決めることができる。以下の4種類は、同じ非正規雇用の労働者という位置付けだが、仕事に対する自主性があるか否かによって、収入の面でも大きな違いが生じている。
(1)の独立契約者が、他の(2)~(4)と違うのは、報酬を受け取るクライアントを複数開拓していることで、自分のWebサイトやブログ、フリーランス向けのマーケットプレイスなどから、新規のクライアントや、仕事の依頼を獲得している。彼らはネットを上手に活用することで、個人事業者でありながら、仕事仲間との関係を深めて、グループとしての活動もできる、先進的な「コワーカー」といえる存在だ。
翻って、日本ではアルバイトや派遣社員は増えている反面、自営業者の数を時系列で辿ると、激減していることがわかる。会社を設立する経営者の数も横這いであることから、日本人の働き方が、受け身の姿勢へと後退している様子がうかがえる。
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