written in 2010/12/17
少年の頃、日暮れ時になると、会社から帰ってきた父親とキャッチボールをした思い出があるのは、昭和40年代までに生まれた人達であろうか。それ以降は、親は残業で帰宅が遅くなり、子どもは学習塾通いなどで、親子がコミュニケーションできる時間は次第に少なくなっている。
そして、夫と妻が共にサラリーマンとして働く家庭(共働き世帯)が増えていることも、子育てのスタイルを変化させている。共働き世帯は、1980年には約6百万世帯であったのが、現在は1千万世帯を超して、1990年代の後半には、母親が専業主婦の世帯を上回るようになった。
《共働き世帯と専業主婦世帯の推移》
女性の社会進出は、欧米のほうが顕著にみられる傾向で、日本の女性(30代〜40代)で働いている人の割合(就業率)は60%台であるのに対して、米国は70%台、欧州諸国は80〜90%と非常に高い。世界的にみて、今後はさらに女性の就業率が高くなることが確実で、特に、高学歴の女性を無職のまま休眠させておくのは、国や企業にとって大きな損失だという考え方が広まっている。
しかし、女性が働くことにより、家事や育児で犠牲にしなくてはいけない面が、どうしても生じてくることが弊害として指摘されているが、それに対する解決策は大きく2つが考えられている。
一つは、通勤や勤務時間の縛りが緩やかな「家内労働者」を増やすことだ。日本でも昔は、農家や自営業の家庭で、子どもの世話をしながら、家業の仕事をしている母親を多く見かけたが、いまでは大半の人が、外に勤めに出ている。そのため、子どもと接する時間が少なくなってしまう。
そこで、主婦の就業率が高い欧州では、“現代版の家内労働者”を増やそうとする政策を進めて、テレワークの普及に力を入れているし、米国では主婦層に対して、自宅で開業可能なスモールビジネスの起業を推奨している。
《現代版家内労働者の例》
・独立契約のテレワーカー
・企業に雇用された在宅勤務者
・契約制の各種スクール講師
・アフィリエイター、他のオンライン副業
・フリーランスのデザイナー、プログラマー等
・契約制の業務請負社員
・スモールビジネスの起業者
そして2つ目の解決策は、「外で働く女性が今後も減ることは無いという」という前提の元に、家事や育児の仕事をアウトソーシングできる市場を整備することである。日本でも家事全般のアウトソーシングについては、各種のサービスが存在しているが、米国で新たに注目されているのが、“親としての仕事”を外部の業者に任せる「ペアレント・アウトソーシング」と呼ばれる市場である。
たとえば、幼児のトイレをしつけることは親の役目だが、それを経験が豊富なベビーシッターに任せる親が増えていたり、子どもとキャッチボールをしたり、宿題を教えたり、ということまでがアウトソーシングの対象になっている。(映像は米国のテレビで放映されているベビーシッター業者のCM例)
VIDEO
言い方を変えれば、忙しい親たちの間で、子育てや教育の高度なノウハウを持つスペシャリストと、二人三脚で子育てをしていきたいというニーズが拡大しており、米調査会社、IBISWorld
の報告によれば米国内でペアレント・アウトソーシングの市場規模は、2010年の時点で 558億ドル(約4兆8000億円)と試算している。
日本でもみられるペアレント・アウトソーシングの例として、子どもを保育園に預けることがあるが、米国では両親が働く時間帯に応じて、柔軟なサポートをしてもらえるベビーシッターに対する人気のほうが高くて、主婦層の社会進出を支える裏方ビジネスとして支持されている。そこに関連した業界の仕組みを掘り下げることで、日本でも応用可能な、子育て支援ビジネスの急所がどこにあるのかを考えてみたい。
(注目の新規事業一覧へ )
●女性の地位向上で変わる子育て市場
●女性の就業率と出生率の国際比較
●ペアレント・アウトソーシング市場の内訳
●子守りを代行するベビーシッター業界
●日本におけるベビーシッター開業のヒント
●ベビーシッター割引クーポン制度の仕組み
●ベビーシッター育成ビジネスにおける商機
●ベビーシッター教育事業のビジネスモデル
●信用調査が急所のベビーシッター派遣業
●新たな寄付マネーと雇用を生み出す放課後市場
●民間ビジネスとして広がる家庭内保育サービスの個人開業
●価値が下落する学歴社会に求められる教育投資効率の考え方
●教員高齢化の裏にある少年スポーツチーム支援ビジネスの商機
●欧州企業が推進するテレワーカー育成と社会保障問題の接点
●体育の先生を派遣するビジネスの採算性と学校向け人材派遣業
●ちょいワルオヤジを見習うワーキングマザー市場の作り方
JNEWS LETTER 2010.12.17
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