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デジタルストレスを和らげる
感性ビジネスとアナログ市場
written in 2010/3/28

 いま一世帯あたりが衣料品の購入に費やしている金額は、1ヶ月あたり1万2千円。これは10年前よりも4割近く下落した数字である。しかし、現代の人が昔よりも粗末な恰好をしているわけではなく、ユニクロなどの登場によって、衣類の価格水準が下がったことによる恩恵だ。もはや品質の上では、ユニクロの製品と高級ブランド品との間で大差は無くなって、高級品を扱うの百貨店が深刻な販売不振に陥っているのは周知の通りだろう。

しかし、すべての需要が安価な服だけで満たされるわけではない。近頃では安くても品揃えは豊富になっているが、一つだけ不満なのが「サイズ」の問題である。量販店で売られている服のサイズは大半が「S、M、L」の3種類で、しかも不良在庫を防ぐ都合から、売れ筋のサイズだけが多くて、そこから外れている人にとっては、自分の体にピタリとあう服がなかなか見つけられない。JIS 規格で決められたS・M・Lのサイズに合う人の割合(カバー率)は、じつは国民の半数程なのだ。

そのため最近のオシャレというのは、デザインにこだわることに加えて、自分の体格にピタリと合う服を選ぶことが大切で、既製品ではなくて、自分の体に合う服をオーダーする人もいる。衣料品の市場規模からみると、オーダー服のシェアは微々たるものだが、客単価とリピート率が高いのが特徴。近年の職場では、クルービズやカジュアルデーが普及してきたことから、オーダーシャツ専門店への人気が高まっている。

そこで重要なのが、顧客のサイズを採寸するための技術だが、以前はIT機器を駆使したデジタル技術により、非常に精度の高い計測をしようとする方向を追求していた。しかし、人間の体は毎日のように変化しており、誤差の無いサイズ合わせで作った服には、逆に“着にくい”という苦情も寄せられている。その反省を踏まえて、最近では、採寸はデジタルではなくて、わざとアナログの方法により、着心地に配慮する方向へと回帰している。これは中小のオーダー専門店による職人技が活かせる分野である。

《デジタル採寸の欠点》
    デジタル採寸の欠点

服の採寸に限らず、ITが普及した1990年代以降、我々の生活は急速に“デジタル化”へとシフトして、ボタン一つで必要なデータを収集したり、検索できるサービスが普及した。商品の製造や流通経路でも様々なデジタル革命が起こったが、そうした便利さに対して、どこか疲れた気持ちを感じることはないだろうか?

これは人間にはもともとアナログ的な生態があり、デジタルの数字で管理される環境だけでは、ストレスや飽きが生じてしまう。音楽にしても、何千曲という音源を携帯プレイヤーの中で持ち歩けるようになったが、人間の耳には聴こえないはずの周波数をカットした圧縮音源に、どこか物足りなさを感じて、アナログ音源へと回帰するオーディオファンも増えている。彼らは、音楽愛好者の中で最も、多額の出費を厭わない優良な客層だが、わざわざ時計を逆回転させた、古い技術へと回帰しているのだ。

そこに企業が着目しない手は無い。1990年代から起こったデジタルへの傾倒は、利益率の低下へと繋がっているため、デジタル企業としての生き残りは難しい。そこでアナログ的な要素を製品やサービスの中に組み込むと、消費者の感性を刺激した付加価値の高いビジネスにすることができる。

ただし、これから注目される「アナログ」には、デジタル技術と人間の感性との間にできた溝を埋められる、新たな技術やノウハウが求められている。そこで今回は、デジタル革命の発展型として起こっている、新アナログビジネスとな何なのかを探っていこう。
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この記事の核となる項目
 ●ITの疲弊と目に見えないデジタルストレス
 ●デジタル時代に生まれる新アナログ・メーカー
 ●アナログ機器と人間の相性について
 ●デジタル製品の暴落シナリオと新アナログ技術の付加価値
 ●デジタル製品の価格はなぜ暴落するのか?
 ●IC化された電子製品の暴落シナリオ
 ●デジタル製品で見直される新アナログ技術
 ●ムーアの法則から逃れるITビジネスのモデルチェンジ
 ●ITビジネスにおける「デジタル」と「アナログ」の棲み分け


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