モテ男を育成する婚活市場からみた理容店と美容院の明暗
「婚活」という言葉が流行り出したのは2008年の頃からだが、それ以降は結婚産業に対する敷居がかなり低くなって、空前の婚活ブームが起きていた。積極的なのは女性のほうで、結婚情報サービスやカップリングパーティには男性よりも女性が先行して申込みをしてくるという状況。これは婚活ブーム以前には見られなかった傾向で、業界にはちょっとしたミニバブルが起こっている。この背景には、不況による就職難や年収のダウンにより、女性が永久就職先としての結婚相手を真剣に探そうとしていることがあるようだ。
ところが通期の業績でみると、結婚業者の売上や利益が爆発的に増えているというわけではない。どういうことかといえば、新規の入会者も多いが、それと同じくらい退会者も多いことを意味している。結婚情報サービスを利用した婚活は、「3ヶ月が勝負」と言われており、その間に理想の相手が見つからなければ、自分が希望する相手の条件をかなり緩くしていかないと、紹介される異性会員は次第に少なくなっていく。そして入会から1年以内には6~8割の会員が退会していくのだ。
さらに婚活サイトを悪用した詐欺事件が増えてくれば、ネットの出会いは危険という風潮になり、婚活業界にもターニングポイントが訪れる。ただし「結婚相手を探したい」という人が潜在的に減るわけではないため、婚活ビジネスに目を向けること自体は間違いではないだろう。そこで今後の婚活業界に求められるのは、バーチャルからリアルへの転換だ。そもそも、これまで異性にモテなかった人が、ネットなら簡単に恋人や結婚相手が見つかるというのもおかしい。
女性が男性に求めるのは、学歴や年収ということもあるが、それよりも本能的に察知するのは、見た目の印象や立ち振る舞いである。これは、美男子(イケメン)以外はNGということではなく、お見合いや初デートの時に、洋服のセンスや店でのマナーなどが、女性の目からみて好印象であるかどうかが問われている。
逆にいえば、学歴や年収は平凡でも、外見の身だしなみや女性への態度が魅力的である男性のほうが人気は高い。それは、男性側の努力や気持ち次第で改善できる部分である。
「異性からモテるための努力」は独身者ばかりでなく、既婚者でもビジネスパーソンとして会社内での好感度を高めたり、クライアントや消費者からの支持率を上げるために必要なスキルというのが欧米流の考え方で、それを支援するためのビジネスも登場してきている。
また、モノやサービスを売る業者側としても、顧客のモテ度をアップさせるという付加価値の与え方は大切で、その気遣いや工夫があるか無いかの違いにより、顧客の増減や売上が変わってくる。日本の独身男性はオタク系の趣味に走る傾向があり、そちらの市場は手堅い成長をしているが、それとは別の切り口としてモテ度をアップさせるビジネスには、婚活市場とも隣接した商機が見込める。それをどのように展開していけば良いのか、いくつかの業界を例にして見ていこう。
【理髪店はなぜ衰退していくのか?】
意外と思うかもしれないが、婚活市場と最も近い距離にあるのは理髪店である。
昔のお見合いなら、前日に行きつけの理髪店(床屋)へ行って散髪してもらうのが“お洒落をする”ことになったのだが、いまならNGと言われることのほうが多い。
結婚紹介所でも、これまで女性にあまりモテなかった男性会員に、まずアドバイスをするのは『理髪店に行くのを止めて、美容院に変えましょう』だと言う。見た目の好感度を上げるための第一ステップは「ヘアスタイルに気を遣うこと」なのだが、婚期が遅れた独身男性の中には、かれこれ十数年以上も髪型を変えたことがないという人が非常に多い。
彼らにヒアリングしてみると、昔から同じ床屋に通い続けているという。もちろん全国にある床屋のセンスがすべて悪いというわけではないが、美容院と比較すると、いま風のヘアスタイルには疎い店主が多い傾向は否めない。それは理髪店経営者の平均年齢からもわかることで、2006年には60歳だったのが、2011年には64歳にまで上昇するとみられている。一方、美容室は40歳代の経営者が平均であり、そこで働く美容師スタッフには20代も多い。
理容店や理容師の数は、20年近く大きな変化がない“無風”の状態が続いているが、新たに資格を取得する新人の数でみると著しく減少している。理容店に通う男性客には常連が多いため、表面上の経営は安定しているように見えるが、店側も客側も高齢化が進んで、新しい流行やセンスに対する感度は美容院よりも低いと言えそうだ。それを裏付けるように、男性の中でも若い世代ほど美容院へ通う人達の割合が高くなっている。
【技術を自負する理容店とセンスで勝負する美容室】
そもそも「理容店」と「美容院」は法律によって区別されている。理容は頭髪のカットや顔剃りによって“容姿を整えること”であり、美容はパーマや結髪、化粧によって“容姿を美しくすること”という定義の違いがある。そのため理容店はカミソリを使えるが、美容院ではそれが禁止されている。またハサミによるカットも、美容院ではパーマや結髪に必要な補助作業として認められているもので、カットだけの専門店というのは想定されていない。逆に、理容店ではカットをせずにパーマやセットだけを専門にすることはないという解釈だ。
しかし現実には、このような定義は形骸化しており、カット専門の美容院が違法で摘発されたという話は聞かないが、古いタイプの理容師には、美容師よりもカット技術が高いという自負を持っている人が多い。そのためか、完璧に仕上げましたと言わんばかりに、どんな客でもカクカクに刈ってしまうのはいただけない。
女性に限らず、男性もヘアスタイルに関して“美しさやセンス=好印象”が求められるようになっていることに、理容店ではもっと目を向けるべきだが、理容業界では、世間の声やニーズを客観的に把握する方法が存在していないのだ。
美容院の場合、予約制で来店を受け付けるのが主流のため、顧客情報を管理していることに加えて、美容師(スタイリストという)は、顧客からの人気投票(指名件数)によって優劣や給与のランクが決まるため、指名してくれた客の魅力を最大限に引き立てられるヘアスタイルの研究には、自ずと熱心になる。
さらに“カリスマ美容師”と呼ばれるようなトップスタイリストになると、店に所属しながらも独立した立場で、指名客からの売上に対して何%という歩合報酬を受け取る方式になっている。そのため新しい技術やセンスを磨くためのモチベーションは常に高い。
一方、理容店は9割以上が店主一人か夫婦による個人経営というのが実態で、流行を追いかけることのどん欲さに欠けている。しかも、最近の来店客減少を、激安理容店の影響と考えている向きがあるが、経済的に余裕があるわけではない若者が、なぜ割高な美容院へわざわざ行くのかを冷静に考える必要がある。
●理容店の平均客単価………3,700円
●美容院の平均客単価………7,200円
それでも、海外在住の日本人からみると、日本の理容師が持つ技術は世界一だと評する人が多い。あとはデザインやセンスの感度を高めることで、客単価の向上やサービスのすそ野を広げていくことはできるはずだが、具体的に何を変えていけば良いのかがわからない。そのビジネスパートナーとして浮上してきているのが、対人関係で好印象を与える方法をアドバイスするスペシャリスト職である。
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■JNEWS会員レポートの主な項目
・理髪店はなぜ衰退していくのか?
・店舗数と資格者数でみた理容店と美容院の比較
・技術を自負する理容店とセンスで勝負する美容室
・カリスマ美容師の収益構造について
・好感度をアップさせるパーソナルアシスタントの仕事
・婚活市場を意識したパーソナルスタイリスト業
・新時代に対応したエチケットマナー開発とデキる人材育成
・人間関係の作法を教えるエチケットコンサルタント
・エチケットコンサルタントの指導内容について
・未婚者市場に向けた婚活ビジネスの業界構造と参入の視点
・個人事業化するエグゼクティブ層を支える裏方ビジネス
■この記事の完全レポート
・JNEWS LETTER 2009.11.8
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