written in 2008/8/8
昭和の国民的ヒーロー、力道山を街頭テレビで応援したという思い出のある人はいま60代を迎えている世代だろうか。彼が日本中にプロレス旋風を起こしていた昭和三十年代の前半は、サラリーマンの平均月収が2万5千円だったのに対して、当時の白黒テレビは15万円近くした。そのためテレビがある家はまだ珍しく、駅前などに設置された街頭テレビには大勢の人が群がったという。その後、皇太子(現在の平成天皇)成婚パレードや東京オリンピックなどのイベントを契機にテレビは急速に普及して、現在では「テレビのない家」は全世帯の1%未満になっている。
ところが最近では、インターネットの登場や娯楽の多様化によって、テレビの視聴率が低迷してきていることは各所で報道されている通り。視聴率が下がればCMを出稿するスポンサー企業は減り、それが番組予算の切り下げへと繋がり、さらにテレビがつまらなくなるという悪循環に陥ってしまう。テレビ局各社の決算報告をみても、大幅な広告収入の減少によって株価も急落している状態だ。
視聴率の低迷には複数の要因が絡んでいるが、特に顕著なのは「若者のテレビ離れ」が加速していることだ。昔のテレビは「子供や学生が夢中になって見るもの」というのが常識だったが、いまではそれが当てはまらず、逆に「高齢者ほどテレビをよく見ている」という状況へと変化していることは、以下のデータからも把握することができる。
《テレビの視聴時間推移》
この推移からみると、現在の主なテレビ視聴者は高齢者であることがわかる。それなのに肝心の番組内容というと、相変わらず若者層を対象にしたものが多い。これはスポンサー企業の広告ターゲットが「購買意欲が高い=若い世代」を狙っていることが理由としてあるようだ。高齢の視聴者ほど良質な社会番組を望んでいるが、“広告を見せること”を主な収入源としている民放テレビでは、それに順応することがなかなか難しい。
そこで浮上してきているのが「街頭テレビの復活」である。自宅ではあまりテレビを見なくなってしまった、購買意欲の高い消費者に向けて、屋外の人通りが多い場所や、大勢の買い物客が集まる店内にテレビを設置して「番組(情報)+CM(広告)」を見せようとする発想である。一台の大型ビジョンを街頭に設置して何百人、何千人という人が、歩きながらでも同時に視聴してくれれば、その広告効果は非常に高いものになる。2002年のサッカー・ワールドカップあたりからは、大画面テレビが普及しはじめたため、店内で試合のテレビ観戦ができるようにしたレストランでは、多くのサッカーファンを集客することができたが、それをもっと本格的な街頭テレビ事業に飛躍させることはできないだろうか。
じつはそれが、次世代の看板広告事業とリンクしている。街を歩いていると、大画面ディスプレイに映し出された広告映像をよく見かけるようになったが、これは「デジタルサイネージ(Digital
Signage)」と呼ばれる新たな電子看板で、時間帯や通行人の属性によって、表示させる電子広告の内容を自由に変更できるのが、従来の看板広告とは異なる点である。しかし「広告を映し出すだけの看板(ディスプレイ)」では、消費者の関心はすぐに離れてしまうことから、タイムリーなニュースやスポーツの試合中継なども放映する“街頭ディスプレイ”とすることで、広告効果を高めることができる。デジタルサイネージは、街中の消費者を狙った新メディアとして注目されており、既存の看板広告をはるかに凌ぐ市場規模を持っている。
(注目の新規事業一覧へ)
●街頭宣伝を一変させるデジタルサイネージの魅力
●電子ディスプレイの設置によるリアル店舗の新たな収益化策
●広告収入による客室ディスプレイの導入
●ホテル業界に向けたデジタルサイネージの導入例
●小売店向け店頭テレビ専門の番組配信サービス
●街頭テレビとネットテレビとの接点
●番組配信の業界構造と権利争いについての動向
●米国の番組販売市場の業界地図
●中国で加速する看板広告の買収ビジネス
●テレビ業界の構造までを変えるHDDレコーダー普及の影響力
JNEWS
LETTER 2008.8.8
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