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水危機の到来に向けた「水を売るビジネス」の布石と死角

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JNEWS会員配信日 2008/8/1
記事加筆 2021/9/3

 普段はあまり意識することはないが、我々は一日に200リットル以上の水を使っている。トイレを1回使用するだけで約10リットル、シャワーを軽く浴びると60リットル、その他に洗濯や洗面など、それに飲料水として一日約3リットルの清潔な水がなければ人間は生きていくことができない。地震などの災害でライフラインがストップした際の生活で最も困るのは、電気よりも「水」のほうなのだ。古代からの歴史でも、水の枯れた地域に人が住めなくなることは実証されているが、近代的な生活では水の消費量がさらに増えている。

最近ではガソリンや食料品の高騰が生活を圧迫しているが、次に懸念されるのが「水の危機」だと言われている。地球上にある総水量に対して、我々が飲料水や生活水として使える淡水の量は1%未満しかない。しかも環境破壊や異常気象による渇水で水不足が深刻になってきているし、新興国でも「清潔で安全な水」を使う量が増えてくると、世界中で水の奪い合いが起こることが予測されている。
わかりやすい話でいえば、中国やインドの家庭すべてに水洗トイレが普及するだけで、水の需給バランスは大きく変化して、水道料金が高騰すると言われている。
ましてや「おいしい水」を求めるなら、それはガソリンよりも高価なものになりそうだ。

世界的にみれば日本は水資源には恵まれた国だが、それでも水にかかるコストは次第に高くなっている。国内で一人当たりが消費するミネラルウォーターの量は1980年代には年間で1リットル未満だったのが、2007年には20リットルにまで増加している。それでも欧米に比べると1~2割程度の消費量に過ぎないが、これには個人差(家庭差)がある。外国産で有名ブランドのミネラルウォーターには女性の購入客が多く、その大半はリピーターとして定着しているし、高齢者の中でも、健康に気遣って水道水からミネラルウォーターに切り替える人達が多いが、やはり大半が同じ銘柄の水を継続して購入している。

必ずしも「水道水が体に良くない」ということではないが、残留塩素によるカルキ臭や、水道管の劣化によって、ごく少量の化学物質が溶け出していることを気にする人達の中には「ミネラルウォーターしか飲まない」という購入層が増えている。1リットルあたりの単価が 100円として、彼らが一日に2リットルの水を消費すると一ヶ月あたりのコストは約6千円。これは喫煙家が一ヶ月に使うタバコ代とほぼ同額だが、これからの時代は、タバコを売るよりも「水を売る」ほうが商売として有望であることは間違いない。

ミネラルウォーターの価格は、高いものだと1リットルあたり500円を超えるものまであるが、そもそも水の仕入れルートや原価はどうなっているのだろうか。
市販されている水の多くは地下水を汲み上げてボトルに詰めて商品化しているものだが、日本では地下水の水源がたくさん眠っているため、それを掘り起こせばいくらでもミネラルウォーターを商品として生産することができそうである。タダで掘り当てた水を1リットルあたり数百円で売ることができれば、それは石油と同等の価値があることになり、オイルマネーならぬ“ウォーターマネー”を生み出すことも可能である。そこに気付き始めた飲料メーカーは、数百億円規模の投資をしてミネラルウォーター製造工場の建設に着手している。

【水を売る自販機オーナービジネスの採算性】

 国内でも「水」の売上が伸びている傾向は顕著で、飲料メーカーの販売実績をみても、コーヒー飲料、茶系飲料、炭酸飲料で大きな成長はないものの、ミネラルウォーターの売上だけが、前年よりも2割以上のペースで伸びている。一方、「水道水はまったく飲まない」という人の割合には地域差があるが、各水道局がアンケート調査を行っている結果では概ね1~3割となっている。ただし「市販の水をよく飲む、たまに飲む」という人も含めると6割以上になり、日本人も水道水と市販水を使い分けた生活スタイルへと変化してきているようである。

そこで新たな開拓されてきているのが“安全な飲料水”を市販するためのルートで、ミネラルウォーターを給水(購入)できる施設は各所に設置されてくるだろう。欧米では水の自販機(ウォーター・ベンディングマシン)に関する市場が急速に伸びていて、そのオーナービジネスも活発だ。これが清涼飲料水用の自販機と異なるのは、在庫をいちいち機械に補充するのではなくて、自販機の中で商品となる水を精製しているという点だ。そのためオーナーは従来の自販機ビジネスよりも好採算を狙うことができるのが特徴。

それを仕掛けているのは、ウォーター・ベンディングマシンを販売するメーカーやオペレーション会社(管理会社)だが、その中の一つArctica Pure Water社の加盟システムでは、1台あたり約 12,000ドル(約130万円)の自販機を所有するオーナーと、自販機の設置場所を提供する店舗の大家、それに同社の三者によって、水の売上高を分配する仕組みになっている。

自販機はスーパー、ショッピングセンター、コンビニ、オフィスビルなど来店客や人通りが多い店舗や施設に設置されている。利用者は自前のペットボトルやポットなどを持参して、好きな分量だけ水を購入することができる。水の単価は1リットルで1ドルが基本だが、5リットルなら 2.5ドル、10リットルなら 4.5ドルというように、量が多くなるほど割安になる。つまりこれは、水を自販機で計り売りしているということで、工場でボトル詰めされたミネラルウォーターよりも5~7割も安価というのがウリである。同社のオーナー向けプランによると、一人あたりの平均購入額は 2.37ドルで、一日に 10人~40人の利用者がある場合で、以下のような採算をシミュレーションしている。

この表からすると、自販機オーナーは水の売上に対して60%という利益率が提示されている。一般の自販機では缶コーヒー1本あたりの利益率が15~20%であることと比べると、水の自販機はとても魅力的な収益が期待できることがわかる。
もちろんこの試算には、メーカーがサイドビジネス希望者に対して自販機を売るためのセールストークも含まれているわけだが、そこに死角はないのだろうか。

【水の種類によって異なるウォータービジネスの採算】

 水の自販機が高採算を見込めるのは、商品にする水が自販機の中で精製されて在庫を仕入れる必要がないところに理由がある。これは本物のミネラルウォーターとは異なる「RO水」と言われるもので、普通の水(水道水など)をナノレベルの0.0001ミクロンというフィルターでろ過することによって不純物を取り除いた人工水で、ピュアウォーター(純水)という名称が使われていることが多い。そのため水道水よりも安全な水であることは間違いないが、「おいしい水」としての付加価値までは期待できない。しかしRO水は浄水装置によって簡単に精製できるのが利点で、地下水を汲み上げているミネラルウォーターよりも原価が大幅に安くなる。

日本では農水省によって、ミネラルウォーターの中でも複数の分類がされていて、天然の地下水を水源としていないRO水の場合には「ボトルウォーター」または普通の「飲料水」と明記しなくてはいけないことになっている。

一般には上表のすべてを「ミネラルウォーター」と呼んでいることが多いが、その商品価値に違いが生じるのは「どこの水源から採取しているのか」という原水の所在で、水道を原水にしてろ過や電気分解をした水は、この中では最も価値(原価コスト)が低いということになる。そのためRO水を売る自販機については、同業者が増えてくると販売単価が切り下げられて、次第にオーナーの利益も目減りしていくことが懸念される。

すでに日本では、大手スーパーの店頭にRO水の精製機が設置されて、会員になって容器を購入するだけで、その後は何度でも無料で純水を持ち帰ることができるサービスを導入しはじめている。これは「RO水を売ること」が目的ではなくて、リピート利用しやすい水の無償提供によって固定客を増やそうとするところに意図がある。

【地下水源を買収する飲料メーカーの動き】

 水ビジネスの本質は、自然の中から湧き出る源を確保するという点で石油や温泉と似ている。日本には“名水”と呼ばれる水源がたくさんあるが、そこの地下水を汲み上げて本物のミネラルウォーターとして販売するには、さぞかし権利料が高いのではと思いきや、今のところ「地下水の権利」というものは存在していない。そのため豊かな水源のある地域に土地を購入して、そこにミネラルウォーターの製造工場を建設すれば、その土地からの地下水はくみ上げ放題というのが実態である。

そのため各飲料メーカーでは、富士山周辺などにミネラルウォーターの専用工場を作り、その地下水に「○○の名水」といった独自のブランド名(登録商標)を付けて販売するという商売のやり方をしている。しかしそれでは、何万年もかけて地下に溜められてきた水資源が枯渇してしまうため、各市町村が条例によって、地下水のくみ上げ設備を設置する際の届け出や、採取量の報告を義務づけたり、その量に応じた税金(ミネラルウォーター税)をかけることも検討されている。
また、市町村が飲料メーカーよりも先に工場を建ててミネラルウォーターを独自に商品化して、地元の名産品にしようとする案もある。

ミネラルウォーター工場の用地を取得することは、その地下に眠る水資源の権利も獲得できるということに、日本の企業や役所もようやく気付き始めて、その利権争いが加熱しはじめているのだ。大手飲料メーカーの間でも、ミネラルウォーター工場の争奪を巡って買収を仕掛ける動きもみられる。これから地下水の採取についての規制が厳しくなると、買収合戦による飲料メーカーの再編が起こるとも言われているほどだ。

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