JNEWSについてトップページ
高級サービスをウリにした隠れ家的商売と自宅店舗の採算

JNEWS
JNEWS会員配信日 2007/3/24

 かつての自営業者というと、自宅と店舗とが同じ屋根の下にあるというのが一般的な姿であった。八百屋や魚屋、それに飲食店など「○○屋」という屋号の商売はほとんどが自宅と店舗を兼ねていた。これには零細自営業ならではの、いろんな好都合な点がある。まず経済的な面では、店舗にかかる家賃がかからない。貸店舗の家賃を払い続けながら商売をするのと、自宅を店舗にするのでは採算効率が大きく異なっている。

自宅店舗型の理容店や美容店では倒産することはほとんどない。腕に技術さえあれば、あとは大きな仕入が必要な商売ではないため、たとえ客が少なくても赤字で借金が嵩むということがないためだ。しかも店と自宅が同じならば、家族が家業を手伝いやすい環境ということもあり、人件費の負担が少ないことも好影響を与える。夫婦二人で営む理容店のモデルケースでいうと、店に2台の理容椅子を置き、客単価が両方の椅子が1日に4回転すると月に約80万円の売上になる。家賃や他人へ給与を払う必要がないのであれば、十分に生活していける金額だ。そこまでいかなくても、月の収入が30万、40万円でも自宅が店舗ならば赤字を出さずに商売を続けていける。

それでも家族経営の店が次々と閉まっていくのは、借金苦による倒産というほどではないが、客の数が次第に少なくなって売上がジリ貧、自分も高齢になってきたことで、この辺が潮時と自ら廃業を決意するという話が多い。昨今のように大型の店舗が当たり前になると、立地がよく駐車スペースがある場所に店を構えないと、新しい客を呼び込むことが難しい。そのため多店舗展開するチェーン企業に個人店舗は客を奪われてしまうという構図だ。気が付くと自宅店舗(店舗住宅)での開業件数はめっきり少なくなってしまった。

ところが最近になって「客を自宅に招いて高級サービスを提供する」という新形態が水面下で成長してきている。従来の店舗住宅と何が違うのかというと、家の中に店舗スペースを作るのではなく、あくまで自宅の応接間に大切なお客様を招くような雰囲気でサービスを提供するというものだ。近頃では日本でもセレブ達の間で、仕事の大切な取引相手を自宅に招いたホームパーティを開くことで新たな商談に繋げるということが行われている。「自宅に招待する」というのは大切な人に対する最上級のもてなしであり、限られた相手でなければ招待してもらえない。それと同じ付加価値をサービス業の中でも提供しようとする動きが、自宅招待型のプライベートサービスへと繋がっている。

自宅に客を迎え入れるということは、その人に対して一般客とは違った特別な扱いをすることでもある。主人は客への最高のおもてなしを通じて、無言で「自分はあなたをVIPとして認めている」ことを相手に伝えている。相手は、普段ならば入りえないプライベートな場で最高の接待を受けたということで、大きな満足感を得られるだろう。それは最高のパーソナルサービスといえる。しかしその舞台裏として、自宅のスペースを高級サービス提供の場とすれば、じつはローコストで経営ができるのだ。

【飲食ビジネスにみる自宅レストラン開業の採算性】

 有名ホテルの料理長を退職したシェフが自宅に顧客を招く形で一日一組限定の隠れ家的なレストランを開業したところ、数年先まですぐに予約で一杯になったという。有名シェフといえども、脱サラをして自分の店を持つことにはリスクが伴うことに変わりはない。そこで自宅に顧客を招く形で隠れ家的なレストランを開業した。「本格的な店を構えるだけの資金的な余裕がないから」というのが本当の理由ではあるが、顧客の側ではそうは受け取らなかった。凄腕シェフの料理を一日一組限定で、しかもシェフの自宅でご馳走してくれるのは最高の贅沢と、普通のレストランよりも高い評価をしたのだ。

自宅レストランの採算性で特徴的なのは、一般のレストランよりも損をする確率が少ないという点だ。家賃がタダ、従業員は家族という環境の中での営業だから、仮にまったくお客が来ない日があったとしても、仕込んだ食材が無駄になる程度で、すぐに閉店に追い込まれるような大損はない。一見するとこれは素人商売のようにも思えるが、突き詰めていくと採算面で大きな利点がある。

飲食店が客に出す料理の食材原価率はメニュー価格の約3割というのが相場。それなら儲かると思うかもしれないが、実際には食材のロス分や店の家賃、人件費などで実質的な利益率はわずか数%と厳しい経営状況というのが実態。そのため3ヶ月も赤字が続けば、それ以上は家賃を払い続けられないという切迫した状況になって閉店へと追い込まれてしまう。

《一般的な飲食店の採算性》

レストラン経営の中で経費の負担が重いのは食材原価よりも販管費のほうで、平均的な飲食業界の指標では売上に対して65%にもなる。販管費の主な内訳は「店の家賃」「人件費」「集客のための広告費」に大別できるが、自宅レストランの場合には、家賃はかからない、従業員は家族、集客は口コミのみ、と従来の常識を覆すことができるため、採算性が著しく好転する。
販管費の負担が軽くなった分については、食材の原価率を高めることができるため、同じ価格帯のコースディナーなら、ホテルレストランよりも自宅レストランのほうが料理は美味しいと評判になるのも頷ける。

《自宅レストランの採算例》

自宅店舗は多くの客はさばけないにしても、昼と夜それぞれ一組(4名×2組)限定としてコース料理の単価を一人6千円に設定すれば、一日の売上は4万8千円。その中の約5割が利益なら1ヶ月で50万円前後の収入(黒字)になる。自宅でおこなう小さな商売としてならば上出来だろう。

【店の場所を非公表にする隠れ家的商売】

 自宅にお客を招く形の「隠れ家」的サービスは、レストラン以外の分野にも広がりを見せている。最近若い女性の関心を集めているのが、女性を対象にセラピーやエステを完全予約制の個室環境で一対一に提供する「プライベートサロン」だ。セラピストが一人で時間をかけてじっくりと施術するということだけでなく、お客がそこでゆっくりとくつろぐ時間の余裕も提供する目的で、一日に受付する客数を数名程度に限定している。とりわけ特徴的なのが、場所は騒々しい繁華街ではなく閑静な住宅街にひっそりと店を構え、その所在地は一切明らかにしていないという点だ。サロンの場所は予約した顧客のみに教えるということになっている。プライベートサロンはセラピストの女性が自宅で営業していることが多く、顧客のプライバシーを保護するという目的に加えて、セラピスト自身の安全のためという側面もあるようだ。

師匠(先生)の自宅で個人レッスンを受けることはピアノや華道などの“お稽古事”の分野ではごくあたりまえだが、最近では講師宅で個人レッスンをおこなう英会話教室や、陶芸家の自宅工房での陶芸教室など、その分野が広がってきている。特に目立ってきているのが、有名な料理研究家やイメージコンサルタントが自宅で料理教室やテーブルマナー講座を開くということだ。そこには、誰でもレッスンを受けられるというよりも、やはり「選ばれた」人だけが受けられるという、いわば「直弟子」的なイメージがある。

プライベートサロンの料理教室版のように、自宅で女性料理家がマンツーマンのプライベート料理教室を開催している例もある。やはりそこでも開催地の住所は公開していない。こうした自宅で料理教室を持っている研究家やシェフに共通してみられるのは、その料理コンセプトが日常の料理、すなわち「家庭の料理」になっているということだ。創作的な家庭料理を追及していくと、あえて目抜き通りに教室を構えなくても、自宅でのレストランや教室を開いたほうが効果的という結論になったようである。

料理教室の指導料は1回あたり6千~1万円と、一般的な料理教室よりも割高な設定。10名までのグループレッスンで、週1回のペースで行われるため一ヶ月の収入は1クラスあたり25万~40万円になる。これを1週間の時間割で3クラス程度持つことができれば、収入もその3倍になる。その中で食材の原価が約3割かかるとしても、教室の家賃がかからないことを踏まえると、魅力的な自宅ビジネスといえる。正式な教室を構えるより、自宅に生徒を招くスタイルのほうが「特別なプライベート教室」という付加価値が高まり、レッスン単価を高く設定できるのは注目すべき点だろう。

【隠れ家的な自宅店舗が成り立つ条件】

 いくら計算上の黒字が見込めても、肝心のお客が来てくれなければ商売は成り立たない。隠れ家的な付加価値をアピールしたところで、その存在を広く告知しなければ客は訪れてくれないだろう。だからこそ「商売は立地が命」と言われ、無理をしても好立地にある店舗を高い家賃で借りなければ集客ができないというのが従来の常識であった。

ところが最近では、目立たない自宅店舗でも集客ができるようになってきた。その理由というのは「完全予約制」というところにある。すでにその日の来店客が予約で決まっている店ならば、目立つ場所に派手な看板を掲げる必要はないし、逆に目立たないほうが“隠れ家”としての価値が高まる。数台分の駐車場さえ確保してあれば、あとは客のほうがカーナビやスマホで店を探し当ててくれる。先に紹介した料理教室のように、自宅で行われるプライベートレッスンは完全予約に限った集客をしているのが特徴である。

完全予約型サービスでは、やはりネットからの集客が鍵になる。顧客はサイト上でサービスの概要を把握して、専用のフォームか電話で事前の予約を行うのが一般的。予約作業の煩わしさを避けるためには、電話予約よりもオンライン予約のほうが確実だ。実際に、ホームページも持たず客単価が上がらなかった隠れ家レストランが、予約機能をつけたホームページを開設したことで単価の高い顧客を集客することに成功したという事例は少なくない。極端なことを言うと、ネットからの予約ルートさえ巧みに構築されていれば、店は目立たない所(立地条件の悪い所)にあっても成り立つのが、従来の商売の常識を覆す新たなリアルビジネスの成功法則なのだ。それが自宅を店舗にした隠れ家スタイルでの起業の機会を広げたといえる。

《従来型店舗への集客ルート》

《隠れ家店舗への集客ルート》

この内容はJNEWS会員レポートの一部です。正式会員の登録をすることで詳細レポートにアクセスすることができます記事一覧 / JNEWSについて

この記事の完全レポート
JNEWS LETTER 2007.3.24
※アクセスには正式登録後のID、PASSWORDが必要です。
※JNEWS会員のPASSWORD確認はこちらへ

この記事に関連したJNEWS会員向けレポート
フードシェアリングによる飲食店舗の新たな集客方法
eフードビジネスによる中小飲食店の生き残りと再生の方向性
飲食業のビジネスモデル転換を促す、未来の食事スタイル
無店舗で起業する料理人向けレンタルキッチンの開発
賞味期限切れ食品を捨てないフードロス対策と子ども食堂
FLと人時売上高を基準に組み立てる飲食ビジネスの限界点


(注目の新規事業)/(トップページ)/(JNEWSについて)/(Facebookページ)

これは正式会員向けJNEWS LETTER(2007年3月)に掲載された記事の一部です。 JNEWSでは、電子メールを媒体としたニューズレター(JNEWS LETTER)での有料による情報提供をメインの活動としています。 JNEWSが発信する情報を深く知りたい人のために2週間の無料お試し登録を用意していますので下のフォームからお申し込みください。

JNEWS LETTER 2週間無料体験購読

配信先メールアドレス

※Gmail、Yahooメール、スマホアドレスの登録も可
無料体験の登録でJNEWS LETTER正式版のサンプルが届きます。
 
Page top icon