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フリーペーパービジネスで 最後に笑う勝者の存在と業界構造 |
written in 2007/3/1
街頭で無料の情報誌(フリーペーパー)を手渡されて、その装丁の立派さとページ数の多さに驚かされることがある。有料紙のサンプルではないのかと、思わず受け取るのをためらってしまうくらいだ。今年1月に創刊された日本初(おそらく世界初)の無料コミックマガジン「ガンボ」などは、総ページ数230ページ、執筆陣も商業誌で活躍している有名漫画家が名を連ねている。そんな立派な雑誌でも、まるで広告チラシのように街頭で配られているのだ。
フリーペーパーの人気は日本だけでなく世界のトレンドで、欧米では新聞のフリーペーパー化の急速に進んで、大手新聞社もその対応策に苦慮しているほどだ。日本では新聞分野での動きはまだ小さいが、タウン誌などの生活情報分野では有料紙が成立たないと思えるまでに成長している。フリーペーパー業者の団体であるジャフナ(日本生活情報紙協会)の調査によれば、日本全国で発行されているフリーペーパー(新聞や雑誌などの形態)の数は千を超えていて、部数は約2億2千5百万部にもなる(国民一人に2部の配布ということになる)。
そうなればやはり「フリーペーパー事業での起業を」と考える人が増えてくるのもの当然だが、はたしてフリーペーパーの発行は本当に儲かるのか?という点を疑ってみる必要がある。フリーペーパーの収益源は広告掲載料に100%を依存しているため、企業からの広告が取れなければ成り立たない。しかもネット媒体とは違って毎号を発行する度に印刷コストがかかるため、広告枠が埋まって収益状況が安定するまでは赤字の垂れ流し状態になる。たとえば、新聞紙の半分のサイズにあたるタブロイド版で8ページ程度のフリーペーパーを制作する費用は、発行部数によっても異なるが1部あたりで30円〜50円はかかっている。フリーペーパーで発行部数が5万部というのは決して大きな規模ではないが、それでも各号の印刷代には100万〜200万円が必要。それを毎週、毎月と継続して発行していくことはとても大変なことなのだ。
もちろん大手出版社が手掛けるフリーペーパー事業は、それなりの勝算があってのことだが、それと同じことを零細ベンチャーが真似しても意味がない。というのもフリーペーパーの発行目的は多様で、成功の基準がそれぞれ異なっているためである。全国で発行されるフリーペーパー発行部数に対して9割以上は、大手の新聞社や出版社、広告代理店が出資する子会社によって運営されるもので、そこでは親会社の意向によってフリーペーパー事業が展開されている。たとえば新聞社の場合、本業の新聞で広告取引がある企業側から、割引クーポンを配布できる媒体としてフリーペーパー誌を求められることがある。新聞社では既に多数の広告クライアントを獲得しているため、彼らに“広告を売るための枠を増やす”という目的ではフリーペーパー型の媒体を持つことも有意義である。
しかしこれと同じことを零細ベンチャーがゼロから行なおうとすれば、広告主もゼロから集めなくてはならず“誰からも求められていない”フリーペーパーを黙々と発行し続けなくてはならない。これでは長続きはしないだろう。では、ベンチャー起業家はフリーペーパー・ビジネスにおいて全く参入の余地がないのかといえばそうではなく、参入する角度を変えることで魅力的な未開拓市場が姿を現わす。それはフリーペーパーを制作する側でなく、配布(流通)させる側に回ることだ。
(注目の新規事業一覧へ)
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●フリーペーパー事業が成功するビジネスモデルの図式
●ラックを制するものがフリーペーパービジネスを制する法則
●新規事業として狙えるフリーペーパー配布の取次ぎビジネス
●無料求人情報誌の制作〜配布にかかる経費の構成
●ネットからリアル店舗への集客を促すオンラインローカル広告市場
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JNEWS LETTER 2007.3.1
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