店舗をセルフサービス化するストアオートメーションは、情報ディスプレイ付きのショッピングカート、セルフレジ、電子棚札(Electronic Shelf Label)などのデバイスで構成され、店舗の自動化だけでなく、客単価やリピート率を高められる機能が組み込まれている(JNEWSについて
ストアオートメーションが生き残りの鍵となる店舗の将来像

JNEWS
JNEWS会員配信日 2005/3/28

店舗がセルフサービス化していく流れは、小売業界全体へと波及していくことが予測されている。その起爆剤として恐れられているのが電子マネーの存在である。携帯電話をかざすだけでレジの精算が済んでしまう時代になると、レジ係をする店員の存在すら必要なくなってしまう。消費者がその便利さに慣れてしまえば、電子マネー決済などのIT化に対応できない実店舗は、“給油所の教訓”が教える通り、急速に淘汰されてしまう懸念がある。そんな時代が到来する前に、未来のリアル店舗がどのように進化していくのかを把握しておこう。

【IT武装する未来の実店舗像】

 一口に“店舗のIT化”といっても具体的な機能は多様で、商品情報端末(キオスク端末)、ポイントカード発行システム、電子マネー対応端末など、既に一部で普及しているものの他に、RFID(ICタグ)や電子棚札(電子的に自動表示される値札)、セルフレジなど新たな技術が次々と登場している。

小売店の現場ですっかりお馴染みとなっているPOSレジもストアオートメーションの一つだが、レジと商品の陳列棚棚、さらには来店客が店内で動かすショッピングカートまでをストア本部から一元管理することが、将来的には見込まれている。この分野でリーダー的な地位を標榜している米NCR社では、商品の価格表示を自動化する電子棚札(Electronic Shelf Label) と精算業務をセルフサービス化するセルフレジシステム、およびキオスク情報端末を、未来型実店舗のキーワードとしている。

24時間営業が当然になる未来店舗では、来店客は自動的に更新される電子POP広告の表示でお買得品を見つけながら、情報ディスプレイ付きのショッピングカートに商品を入れて買い物をする。商品にはすべてICタグが貼付されているため、カート上のディスプレイには「現在の購入金額」が自動的に表示され、精算の際に店員がレジを打つ必要はない。また、カートに会員カードを差し込むことによって前回の購入品リストやポイント残高による割引価格も確認することができる。精算時には、もちろん電子マネーが使える。

商品の値札(電子棚札)は、平常時の価格、特売セール時の価格、というように時間帯や曜日によって異なる価格(動的価格)を自動表示できるため、従来のように店員がすべての値札を書き換えるような手間はなくなる。さらに、ショッピングカートに差し込まれた会員カードの情報を値札が自動認識して、顧客毎に異なる割引価格を表示させることも可能だ。

具体例として、小売業界のソリューションを専門に手掛ける米Retalix社と富士通の合弁で設立された StoreNext社では、店内の買い物に使うショッピングカートに組み込んで利用するタイプのモバイル情報端末「U-Scan Shopper」を開発している。

セルフレジとも連動するU-Scan Shopperは、ショッピングカートに付属した表示画面システムで、買い物客に買い物リストやカスタマイズされた広告などの各種情報を提供できるようになっている。この端末によって店舗側では、各顧客の購入歴から特徴を読み取った商品情報の提供(商品の売り込み)ができるのが特徴だ。


同様の仕組みがIBM社からも、パーソナルショッピングアシスタント(PSA)として開発されている。こちらはスキャナが付属していて、商品をスキャンして価格や詳しい商品情報を表示させることができるようになっている。PSA は、顧客の購買行動を記録収集できること、買い物客に対してナビゲーター的な役割を果たすことで、店舗経営者と顧客の双方に今までにないメリットを与えることになるだろう。


【世界的な普及期に入ったセルフレジの機能】

 電子棚札と並んでストアオートメーションの要となるのが「セルフレジ」と呼ばれるセルフチェックアウト(Self-Checkout)システムである。米国では既にセルフレジが普及期に入っていて、その数は現在のところ約3万台、2006年には20万台に達するとの予測もある。日本では2003年にイオングループのスーパーに一部導入されていて、従来のように店員が精算するよりも顧客の待ち時間が短縮される効果を生み出している。

セルフレジが無人で精算業務をする仕組みは、商品に記載されたバーコードをレジが自動的にスキャンして購入金額を計算していく方式。その際にバーコードが正確に読み取れないエラーや、わざとバーコードを認識させない不正行為が発生することも想定されるが、その対策として商品の重量を感知するセンサーが装備されていて精算ミスが起こらないための工夫が二重、三重に施されている。精算代金の支払いは、銀行のATMにお金を預け入れるのと同じような要領で、投入口に現金を入れるかクレジットカードを差し込む。また精算後の商品は自動で“お買い物袋”に収納される機能も装備されているが、これには不正行為による商品の盗難(万引き)を防ぐ目的もある。

《セルフレジに対する欠点の指摘》

 良いことずくめのように思われるセルフレジだが、実際に導入をした店舗からはいくつかの問題点が報告されている。まずセルフレジと既存店舗との整合性が指摘されている。セルフレジは価格をバーコードで自動で読み取ることになるが、そのバーコード情報は店の持つデータベースから生み出されている。そのデータに欠落や誤りがあれば“読み取りエラー”が発生し、それが理由で顧客が二度とセルフレジを利用しなくなる恐れがある。店員がレジを担当する時のような融通性がないため、データの不備から生じたセルフレジ時のトラブルが、多額の投資をムダにしかねないということだ。そのため、セルフレジのみを闇雲に導入するのではなく、店舗全体の情報管理をトータルに考えた上での検討と準備をしていく必要がある。

また、買い物客とセルフレジの“ファーストコンタクト”が重要ともいう。買い物客が初めてセルフレジを使う時に、店の不親切さからその操作に戸惑いや不安があれば、そのたった一回の悪印象がすべてを台無しにする。使いやすさのアピールと誠意あるガイダンスが重要であることを、米国の専門家達は強調している。

ただし、セルフサービス化に伴う顧客側の戸惑いは、スーパーマーケットや自動販売機、セルフ式ガソリンスタンドなどが登場した時にもあったことで、その後の普及動向をみれば、一度その利用方法に慣れてしまった顧客の中では「セルフ方式以外は煩わしくて利用したくない」という人が増えてくることを、過去の事例が示している。

【来店客の行動を追尾する“影の眼”】

 ネットビジネスではユーザーの動きを“アクセス数”や“コンバージョン率”といった数値データとして管理する手法が確立しているが、実店舗では閉店後にレジの集計額から来店客数や購入単価を割り出す程度の分析しかされていない。
しかし店舗経営の中で重要なのは「来店しても買わずに帰ってしまう非購買客」の動線や心理を分析して、彼らに購買の行動を起させるような販促策を打つことである。

そこで、来店客の行動分析をするための鍵を握るのがビデオモニタリングの技術だ。この市場はこれまでテロ事件や万引きなどの防犯対策として伸びてきた経緯がある。店舗内に設置した数十台のカメラをネットワーク接続してパソコン画面上で集中管理したり、大容量ハードディスクにカメラ映像をすべて録画しておくシステムが安価で導入できるようになっているが、その映像を防犯目的のみで利用するのではなく、来店客の購買分析へと結びつけられる技術は今後の有望分野である。

店舗経営者の立場では、防犯目的だけで店内にビデオモニタリングシステムを設置するのでは投資回収が難しいが、それが販促~売上向上へと結びつく期待が持てるのなら、導入にも前向きになれる。最近ではモニタ画像の解析力も進んでいて、性別や年齢なども正確に判別できるようになっているし、特定人物の動きを複数のカメラで自動追尾することも可能だ。これらの技術を応用すると、来店客数を正確にカウントすることは初級レベルとして、ファミリー層の来店客の購買パターン、独身と思われる女性客の購買パターンなど、小売業者にとって非常に興味深い顧客の特性をモニタ画面から収集して分析できるようになる。

【省力化~営業時間の延長へ向かう実店舗経営】

 実店舗がセルフ化へと向かっていく背景には、小売業の粗利益率が著しい減少傾向にある中で生き残っていくための策として、できるだけ営業時間を長くしたいという意図がある。利益率の目減り分を深夜営業、24時間営業による売上高の増加でカバーしたいという考えだ。

しかし深夜帯の営業で黒字を生み出すには、人件費を極力まで抑えることが必須である。防犯面から最小限の店員を揃えておく必要はあるが、人件費の高い正社員クラスを使わなくとも、入社して数日のアルバイトで十分に店舗の運営ができるようなオートメーション化が求められている。

米国でセルフレジが普及している要因の一つとしては、新規で雇用する店員のレベルが総じて低いために、大切なレジを任せられないということがある。つまり経営者にとってセルフレジは人間よりもコストが安くて優秀な“店員”というわけだ。日本でも24時間営業のノウハウを古くから築いてきたコンビニ店舗にとって、人件費の安いアルバイトの雇用と店舗のオートメーション化は表裏一体の関係にある。

一般的なスーパーマーケットの粗利益率は、売上高に対して約25%程度と低い。
その粗利から諸経費を除いた営業利益率はわずか1~3%台という薄利の商売だ。対して、人件費にかかる負担は粗利益率の約5割を占めている。この重い“店員にかかるコスト”をITによって軽減することが将来の実店舗にとって最大の課題といえるだろう。

《従来型スーパーマーケットの採算構造(例)》

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