顧客心理に基づく宅配レストランの動的価格導入モデル
飲食業界でも、原材料や人件費の高騰によって利益率は下がっており、値上げの必要性が高まっている。しかし、無闇に実行する値上げは、顧客離れを引き起こすため、どのようなタイミングで、どの程度の値上げをすれば、需要(顧客)を減らさずに業績を伸ばしていけるのかが研究されるようになっている。
マサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業した2人の起業家によって設立された「Sauce(ソース)」は、レストランの価格設定によって需要がどのように変化するのかをデータ分析して、最も収益性が高くなる価格最適化のアルゴリズムを開発をするスタートアップとして、投資家からも注目されている。
通常のレストランは、原材料や人件費の上昇に伴い、予定した日時からメニューの一斉値上げをする方法を考える。これは会計をシンプルできるメリットがあるが、顧客側の需要動向には配慮されていない。そこでSauce社が着目したのは、真夏のビーチで売られているアイスキャンディは、「値段が高い」と感じながらも、需要は減らないことである。
同社は、宅配レストランのメニュー価格を曜日と時間帯別に変動させて、需要がどのように変化するのかを詳しく分析することで、顧客行動の法則を幾つも発見している。
たとえば、メニューの価格14ドルから15ドルするような少額の値上げは、16ドルを19ドルに値上げするよりも需要の落ち込みを大きくする可能性がある。これは、消費者が価格の安い・高いを階層別に判断していることが理由で、メニュー価格における14ドルと15ドルの間には、顧客が注文を諦めるドロップオフポイントがあると考えられている。一方で、16ドルと19ドルは「同じ価格階層」と捉えている顧客が多く、値上げに対して鈍感になる傾向がある。しかし、20%以上の値上げをすると、需要の減少が顕著にみられるため、値上げ幅は20%未満に抑えることがセオリーになる。
また、平日と週末では、週末のほうが需要は高い(注文件数は多い)が、顧客は価格に対してシビアに反応する傾向が強い。これは、週末のほうが宅配メニューを選ぶ時間に余裕があることが理由のため、週末の需要が高い時間帯には価格を下げたほうが、多くの注文数を集められる。
一方、平日のビジネスタイムは、「価格よりも時間」を優先して注文する顧客が多いと分析されている。週末は宅配メニューを選ぶのに30分以上考える顧客も、平日に自宅でテレワークをしている時には、夕食のメニュー選びを短時間で済ませたいと考えるため、価格に対する感応度は低くなる。つまり、平日はメニューの値上げに対して鈍感になるということだ。
Sauce社では、このような顧客行動の法則をアルゴリズム化した動的価格システムを宅配レストランに提供することをビジネスにしている。ロサンゼルスで宅配とテイクアウトを主体として、ヘルシー志向のファーストフードを調理販売する「TLT Food」では、前述の法則に基づいて「需要が高い時間帯は価格を安く」「需要が低い時間帯は価格を高く」という条件設定で、動的価格システムを活用している。それにより、料理の売上を38%向上させることに成功している。
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