スタートアップ創業者の持ち株比率を下げない資金繰りの方法として収益分配型ローンの仕組みが開発されている。売上が伸びているeコマース事業者などに対して、ローン会社は売上に連動したレベニューシェアの契約を交わした後に融資を実行する。(JNEWSについてトップページ
スタートアップの資金繰りを支援する収益分配型ローン

JNEWS
JNEWS会員配信日 2021/8/21

 2015年にカナダのトロントで創業した「Clearco(クリアコ)」は、スタートアップ企業のエクイティ・ファイナンス(株式による資金調達)には、創業者の持ち株比率を希薄化させる欠点があることに着眼し、新たな切り口で資金面の支援をしようとするレベニューシェア型の金融サービスである。

同社は、eコマース事業者との間で収益分配契約を結び、融資を実行した後、資金の用途に応じて6~12%の手数料と元本返済を行う取り決めになっている。
たとえば、在庫資金の融資には6%の手数料が設定されており、100,000ドルの融資が実行された場合には、手数料+元金で106,000ドルを支払うことになる。

Clearcoでは、AmazonやShopifyのアカウントに同期接続する形で、融資先ショップの売上を毎日モニタリングしており、プラットフォームからの売上入金があると、事前に設定した返済率(例:売上入金額の10%)で、銀行口座から自動返済が行われるようにしている。従来の銀行融資は、決められた期限までに返済する取り決めだが、Clearcoの収益分配型ローンは、日々の売上に対して一定率の割合で返済していく仕組みだ。

広告やマーケティング活動に必要な資金の融資では、12%の手数料率が設定されているが、Clearcoは、Google、Facebook、Twitterなどの広告アカウントを同期できる機能をショップ側に提供して、広告プロモーションの成果が正常であれば6%のキャッシュバックが受けられるため、実質的な手数料率は6%に下がる。

Clearco

《収益分配ローンの仕組み》

Clearcoの融資システムは、事業者の売上状況をAIがモニタリングして融資の可否や手数料率の設定をしている。これまで5500以上の事業者に20億ドル(約2200億円)の融資を実行(平均融資額は4万ドル)している。ただし、ショップ側にとって資金の調達コストは決して安いわけではない。

在庫資金の融資は、平均4ヶ月で返済が完了するように、売上に対する返済率が設定されるが、100,000ドルの融資に対して4ヶ月で106,000ドルの返済をすることは、実質年率で18%近い金利を払っていることになり、銀行ローンのほうが資金調達コストは安くなる。

それでもClearcoのローンサービスが利用される背景には、従来型の銀行が、中小業者向けの融資に積極的でないことがある。現在の低金利水準では、銀行が融資をしても利ざやを稼ぐことは難しく、特に創業から間もないネットビジネス系事業者への融資は消極的である。

一方、Clearcoはショップの収益状況をAIが分析して、ローン審査が20分で済ませられるアルゴリズムを開発している。ローンの申込受付→審査→融資実行までを最短48時間で行うことが可能なため、急な在庫仕入れなどにも対応することができる。アルゴリズムは、同期されたECアカウントを常時モニタリングしているため、商品政策や広告キャンペーンが上手くいっているショップほど、迅速な追加融資を実行することができる。

さらに、ベンチャーキャピタル(VC)から出資を断られたeコマース業者も、Clearcoの顧客対象になっている。たとえば、栄養サプリメント販売業者のように、商品の収益性は高くても、「事業の目新しさ」に欠けるビジネスは、VCの投資対象とはなりにくいが、収益分配型ローン会社にとっては優良顧客になる。

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