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オーケストラ経営から学ぶ 感動ビジネスのモデルと収益構造 |
written in 2009/12/24
デジタルの世界では音楽のオンライン配信が可能になり、肝心のCDが売れなくなったことで、レコード会社が倒産寸前の状況に追い込まれて、実力のあるアーチストでも音楽で飯が食えなくなってしまうという危惧がある。
しかし、消費者側も「音楽などもういらない」という気持ちではなく、本当に良いと感じる音楽や、“消滅させてはいけない”と思えるアーチストに対しては、何らかの形で手を差し伸べようとする法則が働く。これもソーシャル消費の一つとして説明できる傾向だ。
プロとして確かな歌唱力や演奏力のあるアーチストは、全国のライブハウスなどから声がかかり、出演料や会場でのグッズ販売、それにファンとの交流活動(ファンクラブ)、音楽講師などによって生計を立てており、平均的なサラリーマンよりも高収入を得ていくための道は残されている。メジャーなレコード会社に所属していなくても、熱心なファンがブログで様々な情報発信をして、宣伝マンの代わりをしてくれる。
そこでプロの音楽家が大切にしているのが「生の演奏を聴いてもらう」という、デジタルとは逆行する活動で、実際のライブはCDよりも遥かに臨場感にある演奏で、観客に感動を与えている。そもそも、加工された音源の中で表現できる音楽は、ほんの一部分に過ぎず、最近の音楽不況は「家庭で手軽に聴けるデジタルの音源に飽きてしまった」ことに理由があるのかもしれない。そこで、音楽家の仕事はCDを売ることでなく、「観客に感動を与えること」という原点に戻れば、新しい第五次ビジネスとしての方向性が見えてくる。
《感動をウリにしたファン獲得の流れ》
音楽を“第五次ビジネス”と捉えた上で参考になるのが、オーケストラの経営である。クラシックを演奏するオーケストラは、電子楽器を使わずに古典曲を忠実に再現する生演奏が基本のため、その編成メンバーは 60〜100名超にもなる。しかもマイクを通さないため、良い音響で演奏を聴かせられるのは2千人前後のホールまでで、ロックコンサートのように一度に数万人を集められるわけではないため、興行的にみればどうしても赤字のビジネスだ。
国内でプロのオーケストラは約30団体あるが、そこで演奏する音楽家達は、社員として雇用される形で給料が支払われている。その年収は団体によって差があるが、平均では 500万円台、日本で最も優秀な奏者が揃っていると言われるNHK交響楽団(N響)で約1000万円という水準。
ただし、楽器は自分持ちのため、必要経費を差し引きすると、オーケストラの楽員が特別に高給取りというわけではない。さらに事務職員の人件費、ホールの使用料なども賄えるだけの収入を得ていかないとオーケストラの経営は成り立たないが、その収益状況は以下のようになっている。
《国内プロ・オーケストラの経営状況(2008年)》
この3団体は日本を代表するオーケストラであり、運営母体の性質が異なるため収入の内訳も違うが、共通しているのはステージ演奏による実収入は全体の5割未満で、残りの資金は支援や助成によって賄っているという点だ。NHK交響楽団は、母体のNHKから毎年14億円の助成金が支給されているし、読売日本交響楽団でも、読売系列のグループ各社から支援を受けている。
他のオーケストラ団体でも「演奏収入+何らかの支援金」によって経営を維持しているケースが大半だが、日本では国や地方自治体からの公的支援に頼っている割合が高いのが特徴。しかしニュース報道にある通り、オーケストラへの支援が“事業仕分け”の対象となり、今後の存続が危ぶまれている。
《国内オーケストラ30団体の収入内訳》
このままの経営状態で公的支援がカットされると、オーケストラは解散(廃業)ということになってしまうが、それを何とかしようと考えることが“心の感動”をテーマにした第五次ビジネスの視点である。「儲かる、儲からない」という見地でみれば、事業としての魅力は薄いが、それだけで切り捨てられないのが“感動”を扱うビジネスの特徴。たとえ儲からなくても、やはりオーケストラの指揮者は奏者は尊敬に値する仕事であるし、存続させていくべき文化だと考える人達は多いだろう。
こうした視点は、第四次までのビジネスではみられなかったものだが、現代人が利益優先型のビジネスを推し進めてきた結果、世の中が殺伐として幸福感が得られなくなってしまった反省から、「心の感動」をテーマにしたビジネスを手掛けることが究極の事業という考え方が、起業家の中からも巻き起こっている。
(ビジネスモデル事例集一覧へ)
●心の満足度を与える第5次ビジネスの特徴
●現代人が心を満たす欲求願望
●食ビジネスにおける5段階の進化
●生の感動を商品として売るオーケストラ経営
●国内プロ・オーケストラの経営状況
●感動ビジネスにおける寄付と特典の交換取引
●欧米政府が誘発させる寄付マネーの力
●新しい社会貢献ビジネスモデルの収益構造
●寄付市場の拡大が人を幸せにする法則
●寄付文化の普及で失業者問題が解消するシナリオ
●成功者が究極の目標にするワイナリー経営のステイタス
●企業よりも魅力的なNPOの収益構造と“非営利”の誤解
●イスラム商法に学ぶ営利ビジネスの健全化と懺悔の方法
●企業の商売敵として浮上する“無欲な労働力”のインパクト
●熱狂顧客を育てることで築かれる高収益とファンクラブ事業
●最大の退職者団体AARPに学ぶ団体運営ビジネスの急所
JNEWS LETTER 2009.12.24
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■この記事に関連したバックナンバー
●音源からチケット販売へ転換する音楽業界のビジネスモデル
●市民スポーツを収益化する発想とウォーキングツアーの事業化
●デジタルストレスを和らげる感性ビジネスとアナログ市場
●"芸術"を商業として成功させるための新事業(アート・マネジメント)
●米寄付社会を後押しするオンライン寄付機能のビジネスモデル
●寄付金集めのプロとして活躍するファンドレイザーの役割
●企業よりも魅力的なNPOの収益構造と"非営利"の誤解
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