富裕層高齢者をターゲットにするコンシェルジュサービス
日本でも「コンシェルジュ」というサービスをよく耳にするようになった。コンシェルジュというのは本来、フランス語で「案内人」の意味を指し、一流ホテルなどで顧客の要望に応じたサービスを用意したり、観光プラン作りの相談やチケットの手配まで幅広く対応する秘書的な役割を果たしている。旅先ではいろいろとわからないことが多いために、幅広い範囲にわたって面倒を見てもらえるコンシェルジュのような存在が求められるわけだ。
いまではコンシェルジュ・サービスがホテル業界のみに留まらず、他のサービス業においても注目されはじめている。主に上得意客を対象にして“買い物の相談役”となるコンシェルジュを育成することにより、価格競争とは一線を画したサービス業の上級路線を狙いたいという意図がある。
もちろん、消費者の中には「価格の安さ」を店選びの第一条件とする人が増えているのは事実であるが、買い物の便利さや満足度を優先する人達も富裕層を中心に存在している。富裕層の中でも、特にこれからコンシェルジュに対する需要が伸びるのは高齢者層と言われている。
総務省による全国消費実態調査によれば、70歳以上の世帯貯蓄額は平均値で2千万円を超えている。買い物をするには十分な資金力がある。しかし自分で安い店を行動的に探したり、旅行の手配をしたりということが面倒、または“やり方(申込み方)がわからない”という理由から消費を抑えていることが多い。そこに何でも気軽に相談できる“コンシェルジュ”が付くことにより、新たな消費を喚起させることができるという予測が立つ。
【高齢者向サービスのステイタスを高めるコンシェルジュ】
高齢者向けサービスといえば“介護”というキーワードがまずイメージされる。介護サービスの中でも「買い物代行」は今後の需要拡大が予測されている分野だ。しかし「介護サービスとしての買い物代行」は、これから70歳を迎える次世代の高齢者にとって似つかわしくないネガティブな老人の印象を与える。そこで高いステイタスを感じられるシニア向けのサービスとして「コンジェルジュ」が浮上してくる。
欧米におけるコンシェルジュ・サービスといえば、富裕階層が利用できる「執事、召使い」としての意味合いが強い。これを「買い物代行、ご用聞き、家事代行、便利屋」というレベルに大衆化させてしまっては、割高なお金を払ってでもサービスを利用する価値が半減してしまう。本質的なサービスの内容は「介護サービス」と同じものであっても、それを「コンシェルジュ・サービス」にまでステイタスを高めることで、利用者層やサービスの単価を大きく引き上げることができるようになる。
《現在の高齢者向けサービスとして需要が高いもの(例)》
- お茶のみ、話し相手
- 趣味、習い事の活動
- 緊急通報サービス
- 健康相談
- 食事の用意、提供
- 日用品の宅配サービス
- 買い物の代行、同行
- 車の送迎
- 通院の付き添い
- 住宅の修繕
これらの高齢者向けサービスは、担当する業者がすべて異なっているのが一般的であるが、依頼する側の高齢者としては「信頼できる人にすべて任せたい」という希望が強い。高齢者が求めるサービスとして「お茶のみ、話し相手」が上位にあることからも、人間的な深い関わりが持てるサービスを求めている傾向が強いことがわかる。
【欧米におけるコンジェルジュサービスの仕組みと動向】
欧米におけるコンシェルジュは、主にエグゼクティブクラスのビジネスマンを対象にしていることが多い。本来はホテル利用者のために旅行に関するさまざまなアレンジや手配、情報提供など、利用者のどんな要望にも可能な限り対応する役割を持ったスタッフを意味している。これが近頃では、ホテル分野を超えて、日常生活におけるコンシェルジュサービスとして広がりをみせている。サービスの内容は、コンサートチケットの購入からレストランディナーの予約やコーディネート、忘れ物を取りに行くことに至るまで幅広く対応している。
《一般的なコンシェルジュサービスの内容》
- 日常雑貨品の購入
- ギフト品の購入、ラッピング&配達
- 旅行サービス(旅行の付き添い)
- 引越サービス
- ペットシッティングサービス
- ハウスシッティングサービス(庭の手入れ、家屋の修繕等)
- 使い走りサービス(クリーニング、郵便ポスト、銀行、薬局、図書館、ビデオ店、書店など)
- 宅食サービス
- パーティ、イベント企画コーディネートサービス
これらのサービスは企業の福利厚生としても採用されていて、忙しい仕事に追われる社員が平日になかなかできない家事の雑用を、勤務先の会社が契約しているコンシェルジュに任せるスタイルも定着してきている。企業向けアウトソーシングサービスとしてのコンシェルジュについては、2001.02.24号にて解説しているのでそちらを参照してもらいたい。
■JNEWS LETTER関連情報
JNEWS LETTER 2001.02.24
<企業向けアウトソーシング事業としての便利屋的代行サービス>
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【コンシェルジュ専門業者のビジネスモデル】
米国でコンシェルジュ派遣サービスを専門としている業者は、その料金体系を時間単価で設定していることが多い。コンシェルジュに買い物の代行を依頼する場合には、買い物代金の実費にコンシェルジュのサービス料金(時間単価×時間数)が加算される。
仕事がとても忙しいビジネスパーソンや、お金に余裕のある高齢者にとって、自分の手足となって動いてくれるコンシェルジュはとても頼れる存在になる。例えば、知人が結婚する際の贈り物をする際など、自分に代わってセンスの良いギフトを探し出して購入してきて欲しいといった使い方や、週末に開催するホームパーティの準備をしてほしい、来月に行く家族旅行のコース作成~ホテル、チケットの手配を頼みたい、などコンシェルジュ活用の仕方は多様だ。
コンシェルジュ派遣には、それぞれのニーズや依頼に対して、その専門分野のコンシェルジュを紹介するスタイルと、一人のクライアントに対しては常に同じコンシェルジュが担当するという二種類のスタイルが考えられるが、主に企業向けの福利厚生向けには前者、高齢者向けのパーソナルサービスとしては後者が適している。
コンシェルジュの派遣業は直接スタッフを動かす必要があることから、それぞれの地域単位でサービス会社が成り立っている。一つの地域で成功すれば、同じノウハウで他の地域へと進出していく形で商圏を拡大していくことができるビジネスである。例えば、「Makefield Concierge Services(MCS)」は米ペンシルバニア州のバックス郡地域を対象にして週6日間(午前9時~午後6時まで)のパーソナルアシスタントサービスを提供している。サービスの対象としているのは、一般的な買い物代行やクリーニングサービスなどの他に、フィットネストレーニングのコーチや、週末の過ごし方を変えるためのプランニング、海外旅行の手配など、悠々自適の生活を送る高齢者夫婦が快適に暮らせるための全般的なサーポートをしている。これは、従来の高齢者向け介護サービスとは明らかにステージの違うものである。
また米テキサス州のヒューストン地区を商圏とする「A Personal Touch ErrandService」では、働いている主婦を主な対象としてスポット的に利用できるサービスを提供している。その内容は、銀行や薬局などへの使い走りや買い物代行などが1時間あたり25ドル~の設定で利用できるというもので、平日の昼間は仕事で家庭の雑務をすることができない主婦にとっては、その都度利用できるために有り難いサービスといえるだろう。また高齢者が同サービスを利用する場合には、正規料金の10%が割引される。
■A Personal Touch Errand Service(PTEA)
米国におけるコンシェルジュサービスの料金体系を調べてみると、1時間あたりのサービス単価で15~25ドル、一日(8時間)の利用で120~150ドルといったところが相場。仮に平日は毎日(週5日、1日8時間)コンシェルジュを利用したとすれば1ヶ月間の費用は約3000ドル(約33万円)となり、日本の家政婦よりも、やや高級サービスといった路線だ。
日本でも高齢者世帯の世話をするサービスは各種登場してきているが、顧客の自宅に出入りするサービスでは、担当するスタッフの質や信用、人間性などが重視される。現実に介護サービスの巡回員が、訪問した高齢者宅の現金を盗む被害も報告されていることから、富裕層になるほど多少は割高でも信頼できる質の高い訪問サービスを求める傾向が強い。その辺りに注視していけば、従来の高齢者サービスをレベルアップさせた「コンシェルジュ・サービス」を国内でも普及させていくことは可能だ。
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■この記事の完全レポート
・JNEWS LETTER 2004.4.6
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